これからの時代(Era) をつくりだす存在となるであろう業界注目の若手経営者にフォーカス。そのビジネス観や経営哲学に迫ります。今回は「Photosynth・河瀬航大代表取締役社長」を取材しました。
違和感の言語化が製品を生む
スマートロック「Akerun」は、違和感の言語化から誕生した。仲間との飲み会で、ふと家の鍵のギザギザが気になり「これってセキュリティ甘いよね」と話題にした。身に着けるものはITガジェットだらけなのに、鍵だけが昔ながらの形状。「鍵が不便だという感覚を持つ人はあまりいない。でも、なんでこれだけこの形なんだろうと、違和感を持って言語化したことがプロダクトの製作につながった」と振り返る。発売当時はスマートロックという言葉もなかった。市場をつくり、切り開いてきたと自負する。
失敗を糧に市場に合う製品を
Akerunは当初、家庭向けに販売した。好調だったが、利用データから購入後、思いのほか使われていないことに気づいたという。すぐに販売を法人向けに切り替えた。オフィスは情報資産を管理する場で人の出入りも多く、鍵の管理が複雑だ。その課題解決につながるとして製品は多くの企業に採用された。家庭向けの失敗は、製品と市場がフィットしていなかったことから起きた。この経験を経て、PMF(プロダクトマーケットフィット)を探し当てることが、何よりも重要だと実感した。
会社は上場し、多くの社員を抱える。経営者としてPMFを重視しながら新しいソリューションの開発を続ける。働くモチベーションは、周囲の期待を超えることだ。「やるからには100点ではなく120点を取っていくというマインドで仕事をしている」
認証の一元化で社会をけん引する
思い描くのは、全ての鍵をなくし、一つのIDですべての認証ができる世界だ。認証を一元化すれば、セキュリティを保ちながらその空間に多様な人たちが出入りできるようになり、労働力が自由化されていく。終身雇用といった働き方が崩れつつある中、特定の会社から月給を受け取るような働き方だけでなく、プロジェクト単位で報酬を得るような働き方が広まっていくと予想する。そのためには、空間、労働力の自由化が欠かせない。すでに、コワーキングスペースのように時間単位で空間を利用できる場はどんどん増えている。働く場所と人の流動性が高まることが、日本社会の活性化につながると考えている。認証、決済とあらゆる機能を連携するキーレス社会の実現が成長の「鍵」だ。「そうなるように社会を変えていきたいし、けん引していきたい」と力を込めた。
プロフィール
河瀬航大
1988年鹿児島県出身。筑波大学理工学群卒業。2011年、ガイアックスに入社し、ソーシャルメディアの分析、マーケティングの業務を担当。13年には新規事業としてネット選挙事業の責任者に。14年、Photosynth(フォトシンス)を創業し、スマートロックを活用した「Akerun」ブランドのIoT事業を手掛ける。
会社紹介
既存のドアに後付け可能なクラウド型入退室管理システム「Akerun」を法人向けに展開。顔情報のみで時間単位の会議室の予約やスマートロックと連携したドア解錠を可能にする新ソリューションを10月に発売予定。2021年11月、東証マザーズ上場。