東芝は、今春にもホームサーバー製品の第一弾となる「ワイヤレスAVステーション」を投入する。「ホームサーバーが本格化するのは2004年。それに向けた第1歩となる製品」（東芝デジタルメディアネットワーク社・西田厚聰社長）と、今後の東芝の家庭向け戦略の重要なプロダクトだ。これらの次世代製品の開発・生産のため、昨年10月には青梅工場（東京都青梅市）内に「開発・生産統括センター」を開設。分散していたネットワーク、テレビ、ストレージ、モバイルなどの技術者3000人を統合し、コラボレーションが可能な仕組みを用意した。

●ホームサーバーを開発

　東芝が投入するホームサーバーは、パソコンを中核としたものではなく、むしろテレビがその中心になる。西田社長は、「利用されるのはリビングであり、その活用ノウハウがあるのはテレビ事業。ホームサーバーの基本的な考え方はテレビ」と断言する。

　今春投入予定のホームサーバー「ワイヤレスAVステーション（WAS）」は、リビングルーム設置を前提としたものだ。ブロードバンド接続されたWASは、音楽データや画像ストリーミングなどのコンテンツデータを受信。さらに、リビングのテレビと接続して、WASのハードディスクにテレビ画像を録画し、タイムシフト再生などができる。蓄積されたデータは、個人の部屋ごとに設置されたノートパソコンや各種AVシステムにワイヤレスによる配信が可能で、しかも、クライアントからのリモート操作も行える。

　「この製品には、パソコンの技術だけでは実現できない要素が数多く含まれている」と西田社長は語る。

●技術者3000人が結集

　東芝は、ブロードバンド化の加速、ワイヤレス技術の進展と普及、CS110度衛星による新放送サービスなどを背景に、「デジタル／モバイル分野の技術融合による新市場、新需要創出の好機到来」を見越す。

　そのための製品開発・生産には、デジタル／モバイル分野の横断的な技術の開発と共有、および異分野のエンジニアの集結による知識やアイデアの共有、相互啓発が不可欠だ。

　そのために設置したのが「開発・生産統括センター」だ。青梅工場のパソコン、サーバー、ハードディスク、深谷工場（埼玉県深谷市）のテレビ、柳町工場（川崎市幸区）のDVDなどの光関連製品、日野工場（東京都日野市）のワイヤレス、モバイルの技術者3000人以上を同センターに統合。プロジェクトチームによる業務遂行が行いやすいオフィス環境をつくり、融合型製品を開発する。

　事業部をまたいだ製品開発では、予算確保や分担などの問題が発生しやすい。そこで「C（コラボレーション）ファンド」と呼ばれる戦略的な開発投資予算を別途確保。柔軟に融合化製品の開発に着手できる環境も提供する。

　東芝モバイルコミュニケーション社の溝口哲也社長は、「異なる部門の技術者が集まり、研究、設計、開発、生産までをカバーするのは世界初の試み。新しい時代の新たな標準ともいえる体制を作り出す」と抱負を語る。

　西田社長も、「東芝が得意とする家電、ワイヤレス、モバイルといった技術が発揮できる市場が創出されようとしている。開発・生産センターはそのための重要な役割を果たす」と期待する。

　一度は縮小していた家庭向け市場へのアプローチを本格化するのには、東芝が強みを発揮しやすい市場環境に移行してきたという要因がある。再び攻めに転じる東芝の家庭向けデジタル事業の成否を左右するのは、開発・生産センターの成り行き次第ともいえる。(大河原克行●取材／文)