その他
「個人向け」はデジタル放送で活況 企業は「儲けるためのIT化投資」を
2003/07/28 15:00
週刊BCN 2003年07月28日vol.1000掲載
IT産業は基本的には成長産業である。このことを疑う人間は、業界には誰もいないと言っていいだろう。しかし、そのなかで誰もが成長の“果実”を約束されているかといえば、それは難しい。優勝劣敗――この言葉がぴったりの過酷な競争は、さらに熾烈さを増していくであろう。変化へ柔軟に対応できる姿勢を保ち、次にやって来る波にいかに乗るか。IT産業の考えられる未来を、個人向け市場、企業向け市場それぞれに考察してみた。(石井成樹●取材/文)
IT産業の将来を予測する
■「時間取り合い産業」の攻防戦進む個人市場
IT産業が対象とする市場は、企業向け市場と個人向け市場に大きく分かれる。機器に要求される性能、売り方も大きく異なるので、ここでは分けて考えてみることにする。
個人向け市場では、ブロードバンドの普及、地上波デジタル放送の開始が業界に大きなインパクトを与えることは間違いないだろう。
ブロードバンドに関連する各市場の成長予測で、出典は総務省の情報通信白書2003年版である。個人のブロードバンド利用による市場に限定しての予測で、「機器・システム構築市場」は、ブロードバンド関連の情報家電、パソコン、システムインテグレータなど、「ブロードバンドネットワーク市場」は、DSL、ケーブルテレビ、FTTH(光ファイバー回線)、無線LANなど、「プラットフォーム市場」は、ブロードバンド関連のASP、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)、コンテンツアグリゲータなど、「コンテンツ・アプリケーション市場」は、ブロードバンド関連コンテンツ、eラーニング、インターネット広告などを含んでいる。
これによると、02年には2兆円だった個人向けブロードバンドの市場規模が07年には10.2兆円と、5年間で約5.1倍に拡大すると予測している。最も伸び率が高いのは、プラットフォーム市場で17.1倍。最も伸び率が低いのは、機器・システム構築市場で2.2倍である。市場規模が最も大きくなるのは、ブロードバンドを使った個人の電子商取引(BtoC)市場で、7.9倍の成長を示し、4兆円を突破すると見ている。
個々の数字については異論もあるが、大きな傾向としてはこんなところなのであろう。一言でいえば、ハードウェアはあまり伸びず、関連サービスが伸びるということである。
ただ、ハードウェアについては、地上波デジタル放送の開始で大きくブレイクする可能性がある。地上波デジタル放送は、今年12月に首都圏、名古屋圏、大阪圏で開始され、11年には地上波アナログ放送は中止される。
1億台のテレビ買い替え需要が7年間に発生するわけで、マーケットサイズは巨大である。買い替えの最有力端末はテレビだが、パソコンにもチャンスは大きく広がっている。
パソコンにテレビ機能を取り込む動きはすでに本格化している。地上波デジタル放送によって、ホームサーバーなど新たな機能をもった情報家電の市場開花も促されるだろう。
こうした個人市場を考えるとき、重要な視点は「時間取り合い産業」の攻防が本格化するという点だ。個人が自由に使える時間が1日24時間のうち何時間あるのかは、立場によって相当異なるが、かなり限られていることだけは確かである。
若者は携帯電話に長時間を費やし、かなりの通話料も払っているため、読書に回す時間とお金がなくなり、これが書籍業界に大きな打撃を与えているといわれる。
ここに、時間取り合い産業の“ぶつかり合い”の縮図が現れているわけだが、今後はテレビ、新聞、書籍、ゲーム、インターネットなどを巻き込んだ熾烈な戦いが展開されることになる。
時間を有効に使わせてくれる端末は何か、その端末でどんなコンテンツが楽しめるのかが、戦いのメインテーマになる。例えば、いままでは無為に過ごしていた電車のなかで、時間を有効に活用できる端末が登場すれば、ブレイクするかもしれない。
いずれにしても、個人向けIT市場は今後新たな活況を呈することになることだけは確かといって良さそうである。店頭市場には活気が戻るということである。
■企業に必要な視点は「売上拡大・高付加価値化」
01年における民間企業の情報化投資額は25兆円、前年比伸び率は10.9%だった(情報通信白書03年版)。02年は多少減っている可能性はあるが、巨額な資金が動いていることは確かである。
この投資額を米国と比較してみると、01年の米国は5499億ドル(約66.6兆円)で、日本の約2.7倍の規模をもっていた。90年から01年の12年間で見ると、日本の情報化投資額は2.49倍の増加だったが、米国は6.11倍で2倍以上の増加額を示したという。
米国の好況、日本の不況を反映した結果ではあるが、IT化投資の中身が日米ではかなり異なる点も指摘されている。日本は「コスト削減・業務効率化」を主目的としているが、米国はこれを通り越して、「売上拡大・高付加価値化」を指向しているというのである。
総務省が組織した「国際競争力回復のための企業のIT化戦略研究会」のレポート(02年12月公表)によると、日本の情報化投資が低水準である理由として、(1)ソフトウェアに対する投資が個別案件ごとに行うスクラッチ開発でのカスタムメイド中心であり、業務用パッケージソフトの採用が遅れている、(2)企業間取引におけるEDI(電子データ交換)標準が産業別標準であり、新しい企業間ビジネスプロセス構築などの足かせになっている、(3)特に中小企業などにおいては、取引先の大手企業ごとの端末導入など多重投資になり、中小企業向け業務アプリケーションも少ない??などを指摘している。
同レポートによれば、米欧の業務アプリケーションは、80年代に躍進した日本企業の優れた点を徹底的に研究、プログラム化してERP(基幹業務システム)やSCM(サプライチェーンマネジメント)を開発したという。
これは裏返せば、日本企業もこうした問題点に気がつけば、「儲けるためのIT化投資」を積極化させるはずである。
景気回復次第という要素はあるが、「追いつき、追い越せ」は最も日本の得意なパターンだけに、業界を挙げてこの方向からキャンペーンを張れば、日本の情報化投資は急増していく可能性を秘めている。
IT産業は基本的には成長産業である。このことを疑う人間は、業界には誰もいないと言っていいだろう。しかし、そのなかで誰もが成長の“果実”を約束されているかといえば、それは難しい。優勝劣敗――この言葉がぴったりの過酷な競争は、さらに熾烈さを増していくであろう。変化へ柔軟に対応できる姿勢を保ち、次にやって来る波にいかに乗るか。IT産業の考えられる未来を、個人向け市場、企業向け市場それぞれに考察してみた。(石井成樹●取材/文)
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