理解しづらい制限事項の多さ

　4月1日から、地上デジタル放送には「1回だけの録画は認めるが、それ以降はダメ」というコピーガード信号がかかることになっている。地上デジタル放送推進協会は昨年11月7日、「地上／BSデジタル放送では、放送番組の著作権を守るために2004年4月からコピー制御方式を導入する」という、日本放送協会、日本民間放送連盟の連名によるニュースリリースを出した。有料放送ならともかく、無料のテレビ放送にコピーガードがかかるというのにはいささか違和感を覚えた。また、誰も反対しなかったのだろうかと思い、インターネットで関連情報をたどっていくと、総務省が色々動いていたことがわかった。

　01年6月25日に情報通信審議会に対し、「サーバー型放送の実現に向けて─大容量蓄積機能を活用するデジタル放送方式に関する技術的条件」をテーマに、諮問、素案、パブリックコメントなどを経て、02年6月、総務省令を一部改正し「1回だけ録画可能のコピー制御信号が加えられる」ようにした。具体的には、「1回だけ録画可能」の信号が加えられた番組は、コピー制御に対応した記録メディアとデジタル録画機器の組み合わせでしか録画できないようになる。ただ、ハードディスクに録画し、それをDVDに移す「ムーブ」機能は使えるようだ。ただし、データを「ムーブ」したハードディスクの映像は消えてしまう。

　その意味では、一般ユーザーにはあまり大きな影響は与えない、と言えるのかも知れないが、どうも地上デジタル放送を巡っては、よくわからない動きが続いている。その一例として、地上デジタル放送は、同じデジタルだからパソコンとの親和性が高くなると考えられ、一部の政府系報告書でもそんなニュアンスを出しているのを読んだ記憶がある。だが、どうも実体は異なるようだ。昨年末、ある大手ハードベンダーの社長は、「パソコンには直接データを渡さないようにするなど、制限事項が多すぎて困惑している」と嘆いていたが、その時は言わんとするところがよく理解できなかった。しかし、年明け早々、NECが発表したパソコン初の地上デジタルチューナー内蔵の「バリュースター TX」の断り書きを読んで、疑問が氷解した。

　例えば、添付されたテレビソフト「スマートビジョンDG」について、「スマートビジョンDGによる地上デジタルの録画形式はDVDビデオの形式とは異なるため、DVDプレーヤーで再生可能な形式での保存はできません。また、録画した番組は、録画したパソコンのスマートビジョンDGでのみ再生可能です」という表現がある。「デジタルハイビジョンは、パソコンで処理しやすい解像度に変換して表示しています」とも記載されている。こうした表現を見ると、相性の悪さを懸命にカバーしようとしている姿が浮かび上がってくる。

　ただ気になるのは、既存のDVDプレーヤーでは再生できないとか、録画した番組は録画したパソコンでしか再生できないという点である。発展途上の技術だからそうなのであって、いずれは解決されるのかもしれないが、後ろ向きの開発投資だなという印象を持つ。もし、機能上の問題で、将来とも解決されないのだとしたら、今の段階でユーザーから猛反発を受けるだろう。地上デジタル放送は、本当にユーザーの視点に立った仕組みになっているのか──。この点は、どうも意識して監視していく必要がありそうだ。 石井成樹●取材／文