ソフトでパソコンを売れ

　社内で使う「コーヒー代」と物品名を入力すると、接客用ならば「接待交際費」と瞬時に勘定科目名が検索される──。ジェイシーエヌランド（JCN）が、昨年11月に発売した「やるぞ！青色申告」で新たに搭載した「勘定科目ナビ」機能である。青色申告者にパソコン初心者や年配者が多いことに配慮した目玉機能だ。業務ソフトウェアメーカーが、簿記が苦手な層にも市場を求めての〝涙ぐましい〟努力。実は、こうした前向きな傾向が、「ソフトからパソコンを売る」流通形態を生み出すのではないか。

　ソフトの店頭販売が伸び悩み、大手ソフト流通会社がダウンロード販売にシフト。昨今のパソコン・家電量販店のソフト販売スペースは狭くなる一方。「粗利益率が小さい」というのが売る側の言い分なのか。業務ソフトメーカーの担当者は言う。「ダウンロード販売は効率的。だが、パソコンなどと連動した店頭でのソフト販売の意義は、従来以上に高まっているのでは」。

　こんなメーカー側の声は、日増しに拡大している。ソフトとパソコン、あるいはデジタル家電との融合による販売は、ハード・ソフトの両メーカーにとっても直近の課題であるはずだ。JCNでチャネル販売を担当する北山哲也・専務取締役は、「当社の青色申告ソフトはパソコン需要も喚起できる」と指摘している。JCNの「やるぞ！青色申告」だけでなく、他の業務ソフトメーカーが昨年末に出した申告ソフトは、「入門編」、「初心者向け」をコンセプトとしている。

　青色申告ソフトは1万円前後の商品。青色申告は「簡易帳簿」で提出して最高10万円の特別控除があり、「簡単にできて10万円が戻ってくるならば、ソフトは安い買い物」（北山専務）となりはしないか。しかも青色申告をする年配層は、古いパソコンを保有するか、持っていないかが大半。10万円の控除とくれば、販売方法次第では「毎年のことだから」とソフトに興味を持ち、入門的な低価格パソコンを同時購入するという相乗効果を生む可能性は少なくない。

　携帯電話ソフトでも同じだ。携帯電話を持つユーザーのうち、アドレス管理などに悩む層として女子高校生がいる。だが、この層の多くはパソコンを持っていない。「携帯電話ソフトが欲しくて」パソコンを購入する、という図式は考えられないだろうか。

　昨年1月、大手ソフト流通会社のソフトバンクBBは、店頭で特設コーナーを設け「青色申告フェア」を初めて実施した。青色申告までの期日、申告方法に応じたソフトの選択方法、比較などを記したパンフレットを用意し、業務ソフトメーカー4社のソフトを並べた。「この4社のソフトに加えて、周囲に並べた4社以外のソフトも良く売れた」と、ある量販店の店員は満足げだ。ソフトバンクBBは、「季節物や売れ筋ソフトの特設販売には、興味を持っている」（広報担当者）と、店頭改革には満更でもない。

　最近、主婦層に人気の「献立ソフト」は、「可能性を秘めた商品」（大手ソフトメーカー担当者）という。食材を基に献立を仕立てるが、今後食品にICタグが付き、冷蔵庫にICを読む機能が付けば、「冷蔵庫とパソコン、献立ソフトをつないで、一発で料理メニューができる」（同）。そうなっても、ハード売り場から離れた場所にソフト売り場を置いていては、売れるものも売れない。ソフトとハードを融合させた販売展開は〝自明の理〟で、店頭の重要な役目でもある。 谷畑良胤●取材／文