激突する2大セキュリティベンダー

　中小企業向けビジネスで、シマンテック、トレンドマイクロの両セキュリティ大手が、店頭で雌雄を決する──。中小企業ユーザーの開拓は、セキュリティ市場だけでなく、最近のITベンダー各社が打ち出す共通の強化ポイント。各分野で、競合ベンダー同士が価格や製品機能などで、熾烈な争いを繰り広げている真っ最中だ。そんななか、セキュリティ市場ではシマンテック、トレンドマイクロの大手2社が、SMB（中堅・中小企業向けビジネス）分野で同様の戦略を打ち出しており、シェア争いがさらにエスカレートしそうな気配を帯びている。「店頭で中小企業ユーザーを獲得する」。両社が打ち出した共通の考えだ。

　一般消費者向けビジネスの営業フィールドであるパソコンショップなどの店頭で、中小企業ユーザーにも拡販していく方針だ。一般消費者向けビジネスで培った店頭での販売ノウハウを、企業向けでも生かそうとしている。企業向けの販売は、ユーザーの事業規模を問わず、システムインテグレータなどのパートナー経由が両社ともに中心になっている。だが、シマンテックの齋藤秀明・執行役員副社長コンシューマ事業統括は、「パートナーの足が運びにくい市場」と、SMBを説明する。「ユーザー規模が小さいので、1つの案件に対する利益も当然少ない。そうすると、どうしても大企業中心の営業になってしまい、中小企業はまだまだ手付かず」との見方を示す。拡販の一番効果的な舞台を模索した結果、一般消費者向けで実績のある店頭を選んだというわけだ。

　シマンテックは昨年末、企業向け事業部が担当していた中小企業向けビジネスの一部をコンシューマ事業部に移管。SMB専門部隊を新たに組織し、統合効果を狙う考えだ。すでに販売していた中小企業向けモデルのライセンス数などの詳細を見直し、早急に新コンセプトを打ち出す方針。企業ユーザー向けソフト売り場の新たな提案方法も今後詰めていく。一方、トレンドマイクロは、店頭で売る初の企業向けセキュリティソフトを開発・製品化し、3月中旬から販売に踏み切る。同社としては、店頭で企業向けビジネスを初めて手がけることになる。

　サーバー、クライアント、ゲートウェイでのセキュリティ機能を包含するパックモデルとなっており、「既存製品の単純な組み合わせパックではなく、中小企業のニーズを意識し、新たに開発したモデル」（トレンドマイクロ広報）と力が入る。日本法人の指揮を執る大三川彰彦・執行役員日本代表は、今年の強化ポイントを「サービスと中小企業ユーザーの需要掘り起こし」の2つに絞っており、戦略商品であることを改めて感じさせる。

　両社ともに、組織体制の見直しや製品ラインアップ強化などの〝基本体制〟を整えたばかりで、具体的な戦略で両社の特徴が出るのはこれからの段階だ。これまで一般消費者向けのソフト販売が中心だった店頭市場。決して盛り上がっているとはいえない現在の状況下で、両社はどのように企業ユーザーという新たなジャンルを開拓していくのか。セキュリティという伸び盛りの土俵で大手2社が挑むだけに、注目は集まる。〝中小企業に売るセキュリティソフト〟が店頭でポジションを確立できれば、他ジャンルのソフトでも同様の動きが始まる可能性は高く、ソフト売り場の復活にもつながる。 木村剛士●取材／文