広がるデジタル家電の世界

　デジタル家電市場がさらに広がる動きが出てきた。ISP（インターネットサービスプロバイダ）や家電機器メーカーなど14社がユビキタス社会の実現に向け、「ユビキタス・オープン・プラットフォーム・フォーラム（UOPF）」をこのほど発足。生活に密着した家電機器のインターネット接続を可能にし、充実したブロードバンドサービスの提供を目指す。UOPFでは、参加企業が家電とブローバンドをつなぐオープンな共通基盤「ユビキタス・オープン・プラットフォーム」を開発するための標準仕様を策定する。コンテンツプロバイダやASP業者が家電向けにサービスを提供する枠組みを検討するほか、IPv6への適用も進めていく。

　設立の背景について、代表を務める富田修二・NTTコミュニケーションズ副社長は、「日本では、パソコンや携帯電話などの普及率が高まっているが、まだまだ〝誰でも、簡単に、安心して〟ネットを利用できる環境が整っていない」点を挙げる。「デジタル家電とブロードバンドを組み合わせることで、新しいマーケットを創造できる」（富田代表）との狙いもある。事務局を務めるNTTコミュニケーションズでも、「ITスキルをもたない消費者がパソコンを無理して活用するより、簡単接続をコンセプトにした家電を使う方がメリットが高い」（経営企画部・飯田博之氏）と強調しており、「パソコンだけをベースにしたブロードバンドサービスだけでは頭打ちになる危険性もある。ネット対応機器が増えれば、サービス加入者の増加にも大きくつながる」と、ISPの立場からネット家電によるビジネス拡大を期待する。

　2006年には、ユビキタス社会を可能にするネット家電開発の完全な仕様を策定する方針だ。富田代表は、「インターネットは米国発だったが、デジタル家電とブロードバンドの組み合わせは日本から世界に発信していきたい」と、世界標準化も視野に入れる。韓国や台湾などが低価格路線で、デジタル家電市場でのシェアを伸ばしつつあることから、世界で影響力を一層高めていくことがフォーラム設立の大きな使命でもある。顧問としてUOPFに参加している堀紘一・ドリームインキュベータ社長は、「日本の家電技術は世界でトップレベルだと言い切れる。しかし、中国や韓国などに価格という点で負ける危険性がある」と危惧しており、「情報家電と相性が良いブロードバンドが普及したにもかかわらず、これまではメーカーとキャリアには距離があった。この距離が縮まれば、日本の産業発展に大きく寄与するだろう」と期待を寄せる。

　まずは、ISPへの入会や認証、ISPが提供する決済サービスへの対応、家電間やパソコンとのリアルタイム接続など、どのメーカーの機器、どのISPのサービスを用いても簡単かつ安全に使えるような最低限の仕様を今年5月までに決める予定だ。参加企業各社は今年の冬商戦に向け、その仕様に準拠した家電機器やインターネットサービスを順次提供することになる。スケジュールを急ピッチで進めていくのは、「アジア勢に危機感をもっている」（NTTコミュニケーションズの飯田氏）ことの裏返しでもある。もともと、家電は日本が最も得意とする分野。世界に先駆けネット家電市場を出現させることができれば、日本がデジタル家電で世界的な主導権を握る可能性は高い。日本発の世界に通用する標準仕様を策定することに期待したい。 佐相彰彦●取材／文