日本でもブログ（ウェブログ、日記風簡易型ホームページ）が急速な普及を続けているが、米国ではブログがメディアとして機能し始めたといわれる。いよいよ終盤戦に入った今回の米大統領選でも、ブログはそのメディア力を存分に発揮。候補者の選挙対策本部はあの手この手でブログを積極的に活用しようとしている。

　9月30日に行われたブッシュ、ケリー両候補のテレビ討論会。テレビに映る両候補は非常に紳士的に議論を続けた。しかし、インターネット上では激しい議論が飛び交っていた。

　両候補の選挙事務所はテレビを見ながら相手候補の主張のおかしい部分を必死になって見つけ出し、徹底的に検証。その反論を即座にネット上に流し続けた。送り先は、政治問題を取り上げている数千のブログ。それぞれのブログには熱心な読者がいて、情報はブログを通じてさらに多くの市民に伝搬されていった。

　ブッシュ陣営の場合、相手候補のこれまでの発言や関連文書などのデータを集めた膨大な索引集を事前に作成。テレビ討論会の当日には放送を見ながら、約25人の政策専門家や広報専門家が索引集を使って即座に反論文を作成し、有力ブロガー（ブログの主宰者）に送信したという。

　ペンシルバニア大学のアネンバーグ政策センターが運営するサイトも、両候補の発言を徹底検証して、事実に反する部分を書き出して約4万人のネットユーザーに送信した。

　一方、同じ日にネバダ州のレイクタホで開催されていたブロガーの大会では、有力ブロガー約20人が1つの部屋でテレビ討論会を見ながら、それぞれの意見を自分のブログに更新していった。

　また、夏に開催された民主党、共和党それぞれの党大会では、有力ブロガーに対しプレスパスを与え、プレス席とは別にブロガー席を提供した。党大会でジャーナリスト以外にプレスパスを与えるのは今回が初めて。両党ともブログの影響力が無視できないようになってきたと判断したのだろう。

　ブッシュ、ケリー両候補とも、それぞれブログを開設し、有権者とのコミュニケーションに努めている。

　政治問題を扱うブロガーたちは常に政治家に厳しい監視の目を光らせているが、ときには監視の目をプロのジャーナリストにも向ける。

　9月9日のCBSテレビの人気報道番組「60ミニッツ2」がブッシュ大統領の軍歴疑惑を報道した際に、ブロガーたちは報道内容を徹底的に検証した。

　番組は、ブッシュ大統領がベトナム戦争徴兵を逃れるために父親の縁故でテキサス州空軍に入隊し、兵役義務も十分に果たしていなかった可能性があると報道。その証拠として、同大統領の州兵時代の上官キリアン中佐が書いたとされる書簡を画面に映し出した。

　ところが、当時ほとんど使われていなかった字体がその書簡に使われていることをあるブロガーが発見、ブロガーたちによる徹底検証が始まった。番組側はこの疑惑を否定、ブロガーたちを非難したが、ブロガーたちは文書鑑定の専門家まで動員してこの書簡が偽物であることを証明。番組側は、最終的に誤りを認める発言を行った。

　メディア力を高めているだけならまだしも、監視の目を向けられては、プロのジャーナリストもだまっていない。

　このほどニューヨークで開催されたパネル討論会に出席した著名ジャーナリストのトム・ブロコー氏とピーター・ジェニングス氏は、「60ミニッツ2」を擁護する発言を行っている。ブロコー氏は、同番組に対するブロガーの批判の嵐を「不適切。まるでテロのようだ」と酷評した。ジェニングス氏は「CBSテレビに対する攻撃は大手メディアに対する攻撃であり、革新系メディアへの攻撃である」と指摘した。

　米国では推定200万人がブログを主宰しているといわれる。日本でも昨年からブロガー人口が急増、推定で60万人に達しているとみられている。日本のブロガーたちも最近ではプロ野球再編問題などで活発な議論を展開している。しかし、それはあくまでもネット上のこと。米国のように日本のブログも今後、ネット上だけでなくリアルな社会の政治やジャーナリズムにまで影響を与えるまでになるのだろうか。（湯川鶴章）