中国向け輸出増による好決算が追い風
求められる業務改革や市場開拓
上場企業の2005年3月期決算では、3社に1社が過去最高益を更新するなど、日本の大企業の業績が急回復している。なかでもメーカーをはじめ輸出関連産業では、中国の経済発展を背景にした特需が大きく寄与しており、基本的には最低でも10-20年は続くメガトレンドであるという“楽観論”が広がってきている。そうしたなかで、改めて問われるのが、IT投資の行方である。多くの企業でIT導入によるコスト削減効果は認めているものの、業務改革や市場開拓といった“攻めのIT”に関しては模索の最中といった感がある。中国の地場企業が追いついてくる前に、いかに差別化を図っていくか。国際競争に勝つためのITの必要性が高まっている。(長浜淳之介(フリージャーナリスト)●取材/文)
■3社に1社は過去最高益を更新、IT投資がコスト減に奏功 日本の上場企業の業績が、全般的にV字回復している。
05年3月期連結決算を見ると、鉄鋼では、新日本製鐵が、売上高3兆3893万5600万円(前期比15.8%増)、経常利益3714億4600万円(同91.5%増)となり、売上高が23年ぶりに過去最高、経常利益も15年ぶりに過去最高となった。
また、過去最高益の更新は、住友金属工業が23年ぶり、神戸製鋼所が14年ぶり、JFEホールディングスが2年連続の達成であり、一時期鉄冷えと呼ばれた鉄鋼大手4社がそろって絶好調の好決算を叩き出し、経常利益の総計は1兆1000億円を超えた。
日本郵船、商船三井、川崎汽船といった海運大手3社は、売上高、経常利益ともに過去最高を更新。経常利益は3社とも初めて1000億円を超えた。
三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅といった総合商社大手5社も過去最高益を更新。トヨタ自動車など自動車大手4社、化学大手4社なども過去最高益を更新している。
概して、日本が旧来強かった重厚長大型の輸出産業が復活しており、素材、製造、輸送、建設・工作機械や、それらの企業の海外との橋渡しとなる商社で、1990年頃のバブル期を上回る利益を出しているところが少なくないのだから驚きである。
新聞各社の報道によると、3社に1社は過去最高益を更新している。
大手輸出産業の好業績の背景には、今や世界の工場と呼ばれる中国の経済発展にともなう旺盛な需要がある。鉄鋼などの場合は品薄によって値上げに踏み切れたので、過去最高の増収増益となったのである。
それどころか、中国をはじめ東南アジアの経済発展の勢い、さらに大国インドのブレイクも控えているとなれば、中国の内政上の混乱のようなよほどのマイナス要因が生じない限り、21世紀前半の日本経済は、多少の景気の波はあっても、安泰であるとの楽観論が経済界に広がっている。
では、このような業績のV字回復に、ITがどれだけ寄与しているかを各社広報に聞いてみると、「直接は関係ないと思われる」という回答が口々に返ってきた。
しかしさらに突っ込んで、IT投資にはどのような効果があったのかを尋ねると、「金額では測定が難しいが、コスト削減効果はあった」(コマツ)、「メールがあるから、海外とのやり取りも便利になった面がある。中国企業も鉄を造るだろうし、差別化のために情報戦略は重要」(新日本製鐵)といったように、ある種の効果があったことを認めている。
■「ある程度は成功」が41.1%、今後はCIOの育成が課題 そうした日本企業のIT投資に対するマインドは、民間リサーチ機関の調査結果からも裏付けられる。
ガートナージャパンのITデマンド調査室が今年5月に、978社を対象に調査した「これまでの情報システム(IT)の成果の現実」によれば、ある程度は成功41.1%、どちらかというと成功27.3%と、7割近くで満足できるとしている。
しかし、期待以上の成功0.1%、期待通りの成功5.7%と、改革となるほどの目覚ましい成果を上げた企業は少ない。
そして、同じく同社ITデマンド調査室が昨年10月に、991社を対象に行った「情報システム全体に期待する効果」によれば、上位に顔を出したのは、業務コスト削減61%、業務プロセスの効率化58%、社員の生産性向上54%と、効率化に関する“守りのIT”ばかりであった。
売り上げの増加16%、新規顧客の獲得9%、新規ビジネスの創造7%が示すように、差別化に関わる“攻めのIT”への期待感が低い。
こうした結果は、日本の場合、経済の低迷期に、ボトムアップの形で各部署ごとにムダを省くため、もっと言えばリストラなどコストカットとワンセットで各種ITシステムが導入された事情が反映している。
「顧客満足度の向上を目指すCRM(顧客情報管理)や、分散した顧客データをまとめて戦略的に分析するMRM(マーケティング・リソース・マネジメント)を、少しずつ導入する企業が出てきた」とガートナージャパンの片山博之・ITデマンド調査室リサーチディレクターは環境の変化を語る。
実は現状の日本企業のIT投資意欲については諸説があり、片山リサーチディレクターは「積極化している」と見ているのに対して、IDCジャパンの塚本卓郎・ITスペンディングリサーチマネージャーは、「欧米諸国、他のアジア・パシフィック地域と比べても、伸び率が低い」と対照的であり、意見が分かれている。
しかし、共通するのは「CIO(最高情報責任者)を置いて、全体最適のシステムを目指すべきである」ということだ。日本の輸出産業は、潤沢な余裕が出てきた今こそ、CIOを中心に全社的な目標と戦略を立て、“攻めのIT”を練り直すチャンスが到来しており、そうした方向への機運醸成が、IT業界に求められるだろう。
 | 進むオープン化と全体最適化 | | | | | 「日本の大企業や官公庁では、IT投資の主たる方向性は、メインフレームによるレガシーシステムから、オープン化へと進んでいること。金額ベースで60-70%のシェアを占める」と語るのは、IDCジャパンの塚本卓郎・ITスペンディングリサーチマネージャー。 オープン化への動きは、情報系から始まり、現在では基幹系でも徐々に進んでいる。 |  | それとともに、コーポレートガバナンスの一環として、社内で個々に稼働しているシステムを統合・再編して、全体最適を目指す動きが、ここ2-3年で出てきている。 これらは個別の課題ではあるが、一挙に解決を図ることも決して不可能ではない。 しかし、ビジョンを描き、実行に移せるCIOなくして実現は困難であり、CIOの人材育成が急務となっている。 | | |