導入しやすさがポイント

　実用化に向けて──。経済産業省が2002年12月に発表した「ITスキル標準（ITSS）」の次期バージョンが、来年3月に「ITスキル標準ver・2・0」として策定される。IT人材の不足が叫ばれるなか、各企業が人材教育を活発化させるための指針として打ち出されたITSSは、策定当初から知名度こそ高かったものの、いくつかの課題が指摘されていた。中でも最たる課題は、実際の導入に至るケースが少なかったことだ。

　指針を示したバージョン1の後を受ける次期バージョンには、ユーザーやITベンダーがITSSを容易に導入できる〝工夫〟が盛り込まれる見通しだ。

　バージョン1の策定にも携わった情報処理推進機構（IPA）の平山利幸・ITスキル標準センター企画グループ主幹は、「（ITSSへの）関心の高さは予想以上だった。人材育成の必要性や指針を示すことはできたと思う」と振り返る。しかし、その一方で「経営戦略としてITSSを有効活用できている企業が多いかと言えば、まだまだ」としており、導入事例が思ったほど伸びていないことを嘆く。

　ITSSに関するユーザーの調査レポートでも、導入が進んでいないことが明確だ。

　IPAが行ったアンケート調査によると、「ITSSを導入している」と回答した企業は、全体の12・0％にとどまった。だが、「導入を検討している」と回答した企業は68・0％にも上る。さらに、ITSSの活用方法や評価基準などを示すガイドブックがあった場合、購入するかとの問いには、82・0％が購入すると回答。購入しないと明確に答えた企業は、2・0％に過ぎなかった。

　「関心はあるが、導入・利用できない」──。バージョン1の評価はこんな声に集約される。

　ITSSは、政府が初めて作ったITスキルに関する指針で、ITサービスの提供に必要な実務スキルを指標化している。11職種38の専門分野に分け、それぞれに7段階のスキルレベルを設定している。マーケティングやセールスなど、技術的分野以外の職種も含まれ、対象範囲は広く利用価値は高い。

　ただ、あくまで指標に過ぎず、各企業は自社の人材をITSSと照らし合わせ、不足しているスキルはどこにあるのか、どのような対策を打たなければならないのかを独自に考える必要があった。各企業は、自社でこうした戦略を立てることが難しく、ここに導入が進まないボトルネックがあったとの声は多い。

　次期バージョンには、ITSS自体の改定のほか、研修ガイドラインや人材育成・評価のガイドラインも併せて盛り込まれる見通し。詳細内容は今後の検討に委ねられるが、より実導入を意識した内容に仕上げていく方針だ。

　また、経営者向けには「ITSS概要説明書」（仮称）も並行して策定する。「IT産業における人材教育は、製造業における設備投資と一緒。トップが先進的に人材教育の必要性を認識しなければ普及しない」（平山主幹）という考えからで、企業トップにも人材教育の重要性を意識させる。

　関心は高いが、実際の導入が進まなかったITSSバージョン1。次期バージョンでは、いかに分かりやすく容易に導入できる内容にするかが、人材育成を活発化させるうえで重要なポイントになる。

　一方で企業側には、人材育成を経営戦略の一環として取り込む姿勢をさらに強めなければならない。「目の前の仕事にかかりっきりで、人材育成はほとんどがOJT」（中堅システムインテグレータ）では、いくらプログラムが充実されようとも、優秀な人材は育たない。（木村剛士●取材／文）