予算不足で私物PCが氾濫

　防衛庁の次は、学校か──。教師が持つ情報の漏えいが不安視されている。

　一連の「Winny」からの情報流出は、私物PCの持ち込みが原因。主役を演じた防衛庁のように「私物PCを持ち込んでいる可能性が高いのは、警察と教育機関」（政府関係者）との声がある。確かに、それを実証するようなデータがある。

　文部科学省によれば、全国の小学校教諭数は約33万人で、中学校教諭は約20万人。そのなかで教育用コンピュータ以外のPC、つまり教諭が業務に使うために学校が貸し出しているPCは小学校で約10万台、中学校では約6万台と文科省では把握している。3─4人に1台しかPCを貸与していないのだ。高校では、1人1台までは達していないが、2人に1台はPCが整備されている。教育機関のなかでも小学校と中学校がとくに危ない。

　「今の先生は、生徒の個人情報や成績をPCで管理するのは当たり前」と、教育機関向けソフトに強いアルプスシステムインテグレーション（ALSI）の山城達馬マーケティンググループリーダーは話す。パソコンの貸与がなければ、私物PCで機密情報や個人情報を作成・格納することもやむを得ない。セキュリティ対策を個人任せにしている私物PCに情報が格納されれば、情報流出の危険性は当然高まる。大量の情報を漏らした防衛庁のケースと似通った構図が、今の小・中学校にはでき上がっている。

　06年から始まった「IT新改革戦略」では、教諭にも1人1台パソコンを整備する方針が示されているが、「各自治体から割り当てられる予算の少なさを考えれば、1人に1台のPC環境なんて夢のような話」（学校関係者）という。学校の予算は各自治体によってバラバラだが、「ITにかけられる年間予算は平均300─400万円で、かなり厳しい状況」（同）。防衛庁のように数万台レベルで大量のPCを一括購入することもできない。「防衛庁の次は学校」という推測もうなずける。

　こうした事態を受け、ITベンダーからは新たな取り組みが始まった。低価格が武器の中国セキュリティソフト最大手キングソフトの日本法人は、小、中、高等学校のみを対象に、セキュリティソフトを無償、無期限で提供することを決定。日本独自の展開で、今月中旬から提供を始めた。教室に設置するPCだけでなく、教師の私物PCも対象範囲にしている。トレンドマイクロなどセキュリティソフト大手も、学校向けに関しては企業版や一般消費者向け製品に比べ、低価格でクライアント数無制限のライセンスモデルを提供しているが、無期限無償というのはキングソフトだけで異例の施策といえる。

　キングソフトでは、「知名度を高めるのが狙い。無料でも在学中にソフトを知ってもらい、家庭や卒業後の職場で正規版を買ってもらうという中長期的な販売戦略の一環」と説明する。ただ、教師の私物PCを対象にしたことについては、「慈善活動的な面もある」と話す。

　学校のIT化で、パソコン教室の設置や通信回線の整備は進んだが、私物PCの問題が顕在化したことで、学校がセキュリティ対策に本気で取り組まなければならないことが明るみに出た。予算が乏しいなかで、どう対策を打つか。今後の取り組みを注視したい。 木村剛士●取材／文