ネットワーク業界の未来像を議論

新しいサービスの創出が焦点に

　ワールドワイドのネットワーク機器メーカーやアジア地域の報道関係者などが一堂に会し、現状のネットワーク環境を踏まえて今後の可能性を見いだすイベント「NetEvents2006 Asia Pacific Summit」が5月18日から2日間、シンガポールで開催された。イベントは今年で10年目。今回は、ワイヤレスや次世代ネットワークなどをベースとした新しいサービスの創出に向け、盛んにディスカッションが行われた。（佐相彰彦●取材／文）

■「Wi－Fi」がキーワード「IMS」の採用は賛否両論

　「NetEvents」は、ネットワーク機器メーカーをはじめ、各地域の報道関係者やアナリストが集まるイベント。ネットワーク機器メーカーによる基調講演のほか、複数の媒体がメーカーのパネルディスカッションで司会を担当するセッションも用意。すべての参加者がネットワーク業界の現状に関して意見を交わす場なのが特徴だ。

　キーノートセッションでは、無線LAN機器メーカーである米コグニオのニール・ディーナー・共同創設者兼CTO（最高技術責任者）が「Wi－Fi（ワイヤレス・ファイデリティ）」について講演。ディーナーCTOは、「Wi－Fiが日常生活や業務の一部になってきた。これは、各メーカーがハードウェアを中心に安価な製品を市場投入しているためだ。しかも、政府の規制がないことから各プロバイダが公共の場でWi－Fiサービスを提供、ユーザーの導入を後押ししている。市場では、リアルタイムで情報を収集したいとの傾向が高まっている。そのため、Wi－Fi環境は一段と広まっていくだろう」と分析する。

　その一方で、「Wi－Fiの普及にともない、セキュリティの強化が必須になってくる。企業では、問題解決のためにコンサルタントを雇うなどコストの負担が大きい。セキュリティ対策にはメーカー側からのソリューション提供が重要になってくる」と強調した。

　パネルディスカッションでは、固定網とIP化を融合したマルチメディアサービスの規格「IMS（IP・マルチメディア・サブシステム）」をテーマに各メーカーが言及した。

　IMSが普及すれば、通信事業者にとってはIPベースのマルチメディアサービス用サーバー運営だけでなく、サポートするサービスもIPベースで運営できるほか、これまでの回線交換方式ネットワーク交換機の置き換えが可能となる。携帯電話のコアネットワークとして電話サービスやIPサービスが1つにまとめられる点からも、各国のプロバイダが採用をすすめている。そのため、通信業界で次世代のフレームワークになる可能性が高い。

　しかし、リードタイムの音声サポートが完全ではない点や、システムベンダーにとっては固定網だけのシステム提供で十分にビジネスとして成立している点などで、「IMSの導入は競合他社の動き次第」（米シラントロシステムズのロン・ラッフェンスペーガー・マーケティング上級副社長）との指摘もある。すべてのメーカーがIMSをビジネスの柱の1つとしてシステムを提供していくわけではないようだ。

■モビリティサービスは「Mesh」「NAC」は各社の協調がカギ

　「モビリティとワイヤレス」がテーマのパネルディスカッションでは、ワイヤレス通信機能搭載の機器間で相互通信を行う「Mesh（メッシュ）ネットワーク」がカギになるとの見方が大方の予想だ。

　Mesh型無線LAN機器メーカーの米ストリックスシステムズが、「屋内や屋外に無線アクセスポイントを設置し機器間で通信を行うことで、固定網を使わない無線通信網を構築する“メッシュ・トゥー・メッシュ”が1つの革命を起こす」（マット・ホールドレジ・カスタマーオペレーションズディレクター）と断言。米コグニオでも、「LANとWANは競合関係にあり、現状はなかなか有線と無線が統合しない。しかし、Meshが1つの解決策になるだろう」（ディーナーCTO）とみている。

　しかも、中国やシンガポールでは政府がMeshネットワークの採用を進めている。「中国では2008年にオリンピックを控えているため、積極的にMeshネットワークを導入している。そのため、北京にシステムを提供した。間違いなくアジア地域のビジネスが活発になる」（米ストリックスシステムズのホールドレジ・ディレクター）としている。

　「NAC（ネットワーク・アクセス・コントロール）」のパネルディスカッションでは、シスコシステムズやマイクロソフトなどが主導権争いを繰り広げている状況を非難する場面もあった。

　米インフォブロックスのスティーブ・モック・市場開発担当副社長は、「本来ならば、1ベンダーがシステムを提供したほうが安定性を確保できる。しかし、ニーズにきっちりと対応するシステムを構築するためには、1ベンダーだけでは難しい状況だ。1ベンダーのコンセプトだけに固執するのは良くない」としている。

　同社は、主力の認証アプライアンス製品で「簡易なNACを提供していく。IP電話メーカーなどとのアライアンスを増やし、ネットワーク側からデータ管理が可能な“ネットワークアイデンティティ”市場を確立していきたい」（同）考えだ。

　NTTなど通信事業者による「NGN（次世代ネットワーク）」への投資が増えるため、日本市場でのビジネスを一段と拡大させたいメーカーも目につく。

　米ジュニパーネットワークスは、「NTTはワールドワイドでトップ10以内に入る優良顧客。以前に手がけたブリティッシュ・テレコム（BT）への導入実績を生かし、日本でも確実にNGNビジネスを成功させる」（アンドリュー・マー・アジアパシフィック・エンタープライズマーケティングディレクター）方針を示す。

■アジアビジネスの拡大を示唆　アライアンスにも期待の声

　進化する技術をめぐる各社の思惑は交錯するが、イベント参加企業に共通するのは、アジア地域でのビジネスを一段と拡大したいとの思いだ。

　実際、イベントではアジア地域のビジネスをさらに拡大するため、「パートナーを増やすことが課題」と漏らすメーカーが多かった。

　あるNetEvents関係者は、「業界の現状を議論することに加え、参加メーカーが他社の製品を認め、新しい製品やシステムの創出に向けてアライアンスを活性化するようなイベントに発展させたい」と期待する。

　今後、技術やマーケット開拓などの課題を解決するため、参加メーカーによる協業が増える可能性もある。