国内で日立製作所や富士通、NECが提供する国産ウェブアプリケーション(AP)サーバーが台頭してきた。企業システムは、既存のIT資産やデータなどを生かし、ウェブベースで新機能を付加できるSOA(サービス指向アーキテクチャ)環境に移行。各業務システムのハブとして重要なAPサーバーに互換性や拡張性などを求めている。こうしたニーズなどに応えるうえで、「外資系ベンダー製品やOSS(オープンソースソフトウェア)製品は扱いづらい」との声をSIerから聞かされる機会が増えたと、国産各社は口を揃える。国産各社は、4-6月に発売した新APサーバーでSOA関連の機能を強化。APサーバー市場上位の外資系やOSSの製品を自社APサーバーにリプレースすることで、シェアを拡大できると見ている。
OSS製品が“草刈り場”に
「先進性を売り物とするブランド製品は力を失いつつある」
富士通のAPサーバー「Interstage(インターステージ)」を担当する藤井泰・ミドルウェアプラットフォーム事業部長代理は、企業システムで“緩衝地帯”の役割を果たすAPサーバーの重要性が増し、従来の機能や提供方法だと市場拡大が難しくなったとみている。サーバーなどハードウェアのシステムは、3-5年で耐用年数に達する。一方で、APサーバーに関連する業務システムは10年以上使い続けることが多く、「APサーバーは、バージョン変更後の互換性や継続性、サポートを長期的に保証する必要がある」ともいう。だが、外資系やOSSのAPサーバーは、この点が国産に比べ劣ることに、SIerが気づき始めたと分析する。
SOA化が進むなかで、国産3社が4-6月に発売したAPサーバーの新製品は、いずれも「SOA対応」を打ち出しているのが特徴だ。日立製作所は4月発売の「Cosminexus Version7(V7)」で、ウェブサービスやBPEL(ビジネスプロセスの実行を記述する言語)など業界標準をベースにSOA対応機能を拡張。「既存ITシステムを統合し、既存の業務システムを使いつつ、EDIなど新システムをウェブベースで効率良くつなぐニーズが高い」(菊池均・Eビジネス販売推進センタ長)ためだ。
NECは6月下旬に発売した「WebOTX ver6.4」で、SOAを実現するメッセージ交換の標準仕様「JBI 1.0」に対応したESB(エンタープライズサービスバス)製品を新たに投入。同製品とレガシーシステムを接続するアダプタ製品の提供で、アイウェイ・ソフトウェアと協業し、メインフレーム上で稼働する既存業務システムをSOA環境で運用できることを強化した。「既存システムとつなぐ仕組みを提供する重要性が高まっている」(渋谷純一・第二システムソフトウェア事業部シニアマネージャー)と、日立と同じ考えに立つ。
日立とNECは、SOAにより複数業務を連携してシステム構築する場面が増えていることから、機能拡張を実施した。こうした場面が多いことを受け、富士通は5月初旬に販売開始したSOA対応の「Inter stage V8」から、少量のデータをタイムリーにバッチ処理できる機能を追加した。「従来、こうしたバッチ処理は自前で設計していた。しかし、APサーバーとうまく連携させることで、安全性の問題を解消した」(藤井部長代理)という。
国産3社はいずれも、新APサーバーで「ミッションクリティカル環境」を必要とする中・大規模企業を主要ターゲットにしようとしているのが分かる。現在、国内APサーバー市場で高いシェアを誇るIBMの「WebSphere」やBEAシステムズの「WebLogic」も、SOA関連の機能を強化している。
ただ、「外資系ベンダー製品は、企業の要望に応じ変更する際、本国にエスカレーション(回答を依頼)する手間が生じる。バージョン変更に伴い非互換の機能があることを問題視するSIerが増えた」(ある大手メーカー幹部)ことで、サポート力のある国産APサーバーにチャンスが到来しているというのだ。
各社、今年度10─20%増を見込む
調査会社の矢野経済研究所によると、国内APサーバー市場は、2005年が前年比12.2%増の414億1000万円。08年には、ISV製品への組み込みやSI案件での積極的な採用が増え、573億円まで拡大すると予測している。すでに、富士通と日立製作所は、ISVやパッケージをもつSIer向けにAPサーバーを組み込むパートナー制度を開始し、実績を上げつつある。NECはこれに追随して、6月にISVを対象にした新パートナー支援制度「WebOTX WORKS」を開始した。各社ともAPサーバー拡販に向けパートナー獲得を積極化。外資系では日本IBMがISV向けプログラムを強化している。加えて、SOA環境に移行を進めるためにAPサーバーを投入するコンサルティングを強化している。
国内APサーバー市場ではここ数年、「WebSphere」と「WebLogic」が高いシェアを獲得してきたほか、OSSの「Tomcat」や「Apache」なども台頭している。そこで、国産3社の新製品はいずれも、OSSのAPサーバーとの互換性を高め、段階的に自社APサーバーに移行する戦略を開始。OSSのAPサーバーが導入されている企業システムやISV製品は、3社にとって“草刈り場”となりそうだ。
日立は今年度(07年3月期)のAPサーバー売上高について、前年に比べ10%以上の伸びを期待。富士通も20%弱の成長に達すると予測する。両社の目標値は「例年以上の伸び」だ。NECは、売上規模が「WebOTX」と同等に達するほど、「WebLogic」を大量に販売する優良代理店。NECの渋谷マネージャーは「『WebLogic』は、グローバル企業でニーズが高い。しかも『WebOTX』との棲み分けはできている」と話す。しかし、将来的には「『WebOTX』を毎年120%成長させ、国内トップ3を目指す」(同)と、自社APサーバーを拡大する方針だ。
APサーバーはOSS製品の台頭などにより、ベンダー製品も「低価格化」「コモディティ化(日用品化)」が進んだ。「APサーバー単体を販売する方式では、ビジネスが成り立たない」という声は大きい。SOA環境が進展するなかで、APサーバーをハブとして自社やパートナーのSIerから付加価値を提供できなければ、シェアを拡大することが難しくなりそうである。