米オムジオ社が国内で本格稼働

「ほふり」とネットワーク接続

　2009年1月の証券電子化に備え、証券取引における国際電子決済の動きが表面化してきた。証券取引の電子約定・決済システムの米オムジオ社が、証券保管振替機構（ほふり）とパートナーシップ基本合意を結んだ。オムジオ社は米国の証券債権保管決済機構であるDTCCの傘下にあるITサービス会社で、同社のシステムは事実上の国際標準となっている。両社のネットワーク接続で日本の電子証券取引・決済システムも国際標準に準拠することになる。（佃均（ジャーナリスト）●取材／文）

　オムジオ社は米DTCCの傘下にあるシステム開発、ネットワーク・サービス・プロバイダで、証券取引の約定から決済にいたるまでのSTP（自動化）システムを提供している。同社のシステムを採用しているのは世界42か国・6000社以上で、1日当たり100万件以上の照合・決済データ処理を実行しているという。

　また「ほふり」は、日本で唯一の証券保管振替機関で、株券をはじめ転換社債型新株予約権付社債券、株価指数連動型投資信託受益証券（ETF）、投資証券（REITなど）、一般債、短期社債など幅広い有価証券の振替業務を行っている。2001年9月には「セントラル・マッチング」と呼ばれる約定・決済照合システムを稼働、証券会社や信託銀行にサービスを提供している。

　両社によると、「ほふり」の決済照合システムとオムジオ社の証券取引処理システムがダイレクトに接続し、国内の機関投資家による証券売買に関する約定後の照合・決済業務が自動化されることになる。両社はすでに実際の取引データを用いたテストを完了しているという。

■後処理は相変わらず手作業　取引増大で迫られる対応

　機関投資家を対象としたオンライン証券取引システムは、アルゴリズムトレーディング・システムなどの採用が進み、日本では証券会社と取引市場の間の受発注業務を中心に展開してきた。ところが約定後の処理については、「投資信託などの運用会社は、注文が間違いなく執行されたかどうかの確認を、いまだに手作業で行っているのが実情」（オムジオジャパンの李竟全カントリーマネージャー）という。

　また90年代の中ごろには、証券会社各社が、トレーディングシステムの多様化による業務処理量の増加を見越して、取引約定成立の翌日に代金決済が完了する「T＋1」システムの開発に着手したが、当時の大蔵省の認可が得られなかったため断念した経緯がある。

　しかしインターネット・トレーディングの普及によって個人投資家のすそ野が広がり、取引件数が予想以上に急増して東証システムが停止するなど、トラブルが発生している。結果として、大口取引を主体とする機関投資家向けのバックオフィスの処理業務が遅延するばかりでなく、海外機関投資家の日本市場離れを加速する懸念が生じている。

■09年の証券電子化に備え　システム基盤整備を推進

　こうしたなかで政府は09年1月に証券の電子化を実施することを決め、東証をはじめ証券会社が対応を急いでいる。中核となるのが紙ベースの証券を保有者から預り、電子化して管理、振り替える機構として設立された「ほふり」で、同社は01年に決済照合システムを稼働するなどして証券取引電子決済基盤を構築してきた。

　今回のオムジオ社とのシステム接続によって、「ほふり」の決済照合システムによる機関投資家取引は、約定後、オムジオ社のシステムで取引データを照合して「ほふり」のシステムに自動送信されるようになる。機関投資家は約定後のプロセスが自動化され、証券会社や取引市場は売買件数の増減に柔軟に対応することが可能になる。

　「ほふり」の竹内克伸社長は、「今回のオムジオ社との基本合意は、09年の証券電子化実施に向けたシステム基盤整備を推進する契機になる」とコメントし、またオムジオ社のアダム・ブライアンCEOは「日本の証券取引サイクルにエンド・ツー・エンドの自動化を提供することが可能となる」と、今後の展開に自信を示している。

■サーバー設置場所に懸念も　取引内容は米国に筒抜け？

　金融と並んで日本経済を支えている証券分野の決済システム分野で日米の証券保管決済機構が提携したのは、日本の証券市場を国際的に開放するうえで大きな一歩となる。別の見方をすると、「海外のシステムに対して保守的ないし市場防衛的な証券分野で、独自開発でなく国際標準に準拠したアウトソーシング・サービスに踏み切ったことは評価されていいのではないか」（経済産業省情報政策課の久米孝筆頭課長補佐）という声もある。

　今回のネットワーク接続によってただちに海外機関投資家が日本の証券会社の頭越しに東証など証券取引所に発注をかけるようなことにはならないが、国内に拠点を置く外資系運用会社と投資信託、証券会社、取引所の間のデータのやり取りが自動化されることで、海外資本の流入を加速する効果が期待される。

　懸念されるのはオムジオ社が「原則としてデータ処理用のサーバーは米国内に置く」としている点。現状では対象の多くは海外機関投資家だが、このまま進展すると日本の投資家が海外で行う証券取引のデータもオムジオ社のサーバーを経由することになり、米国にすべての情報を握られることになりかねない。

　また先に発生した誤発注が電子決済システムで起こったとき、その損害額が膨大なものになったり、日本企業に対する海外資本のM＆Aが電子の速度で行われることも考えられる。軒先を貸して母屋を取られるということわざを逆手にとって、日本の証券サービスが国際市場に打って出るきかっけになるかどうか、ここ1－2年が証券業界の情報システムにとって大きなターニングポイントとなる。