「リサイクル」が問題を矮小化

　ここ数年、プリンタ業界では、インクジェットの消耗品である「記録装置用インクタンク（インクカートリッジ）」問題が常につきまとっている。セイコーエプソンが、リサイクル業者のエコリカ（大阪市）を相手取り、特許権を侵害されたとして販売差止めを求めた訴訟で、東京地裁は10月18日、エプソン側の請求を棄却した。今年1月には、キヤノンが似たケースで知的財産高裁で勝訴、エプソンの案件と異なる判決が下っている。

　プリンタ業界では、リサイクル品が勝訴の“お墨付き”を得て、業務用プリンタにまで波及することを懸念し、競合他社も「エプソンの件ではあるが…」と、他人事ではなく先行きを不安視する。エプソン側は直ちに「控訴」。理由は、特許庁がインクタンクの「特許無効審決」（5月）したものを参照して判決を下したからだ。だが、「この『無効審決』は、9月29日付で知的財産高等裁判所に取り消され、特許庁で再審理されている」と、「審理中で権利は有効」として係争を続けるという。

　各紙の報道では、キヤノンの判例を含め、「リサイクル品の排除」などと、地球環境に配慮して「メーカーの横暴」と批判の論調が目立つ。これに対し、一部法曹界では「『リサイクル』の言葉を通じ、問題が矮小化され、表層的な議論に終始している」と、地球環境の問題をテコに、メーカー側が直面する「事業リスク」を軽視しているとの主張が出ている。

　インクジェットプリンタは、写真店で現像・焼き付けするのと同等の写真画質で印刷できるまで技術革新が進んだ。あの小さな筐体には、技術の“結晶”が詰め込まれている。互換性はあるにせよ、ここに「サードパーティ製品」が加われば、不整合が生じて想定外の故障やトラブルが生じる可能性はある。

　プリンタメーカーに聞くと、実際に「液詰まり」や「画質低下」など、消費者からの批判は少なからずある。これに対し、「誰が責任を負うか」という議論が置き去りにされたままだ。

　家電量販店にはプリンタメーカーの「回収BOX」がある。この回収品の行き先は「カートリッジを粉砕し、プリンタ筐体に再生している」と、あるメーカー関係者は明かす。また、「リサイクル業者がカートリッジにインクを充填し、再生する際、CO2が発生して余計に地球環境を破壊している」と、エコリカなどリサイクル業者側が主張する「リサイクルの封じ込めを狙って本来の枠を越えて特許を取得した」という批判に反論する。

　一方では、こんな非難の声もある。メーカー側が市場を独占して「高価格製品」を出し続ければ、消費者の選択肢を奪い、公正な商取引上に問題があるという主張だ。しかし、メーカー側のストック益が減れば、プリンタ自体の高騰を招き、消費者に影響を及ぼすことも懸念される。それ以上に、「メーカーの技術開発やビジネスモデル構築に悪影響を及ぼす」（上記の法曹界関係者）という意見は的を射ている。

　もちろん、メーカー側も積極的に回収を進め、再利用している事実をもっと主張すべきだ。リサイクル品は純正品に比べ、2割安い程度。“賢い消費者”がメーカー側の環境対策を知れば、リサイクル品を買い続けることはないであろう。