主要SIerのシェア争いが過熱してきた。ソフトウェアのサービス化(SaaS)やオープンソースソフト(OSS)など単価が安いソフト・サービスが台頭。これまでSIerの収益源だった個別開発型ソフト・サービスの価格下落が現実味を帯びてきた。これを受けてシェアの拡大で利益を狙う動きが本格化している。景気回復でIT投資が拡大し、当面の受注は順調に伸びている。体力に余裕がある今こそ、次世代のソフト・サービス提供の基盤づくりに投資するタイミングにきている。
低価格化するソフト・サービスに備え
SaaSやOSSなどはソフト・サービスの価格を引き下げ、ビジネス環境を大きく変える要因になる──。大手SIerは先行投資やシェア拡大に向けた準備に着手。この課題に真剣に取り組み始めた。
日立情報システムズは将来的なオンデマンド化を見越した「情報プール化」を進める。情報を仮想化してためるプールをつくり、顧客は水道の蛇口をひねるようにいつでも必要なだけ情報サービスを利用できるという水道理論だ。オンデマンドの基盤となるデータセンターなどに年間50-60億円規模の投資を計画する。
自社の業務アプリケーションをASPやSaaSにつくり替え、仮想化技術を駆使した付加価値の高いデータセンターをベースに、幅広い顧客へサービスを提供する。「システムを個別に構築する時代から、既存の共通サービスを組み合わせて専用サービスとして利用する時代へ変わる」(原巖社長)と、個別開発からオンデマンドサービスへと徐々に軸足を移す考えを示す。
月額料金のオンデマンドは従来の個別開発より安いから売れる。しかし単価は下がるので「シェアを獲らなければ目標とする売り上げは確保できない」とシェアを意識したビジネス展開をめざす。
今年10月1日付でデータセンター事業を得意とするCRCソリューションズと経営統合した伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)はデータセンターの増強に150-200億円規模の投資を行う。「SaaSやOSSなどの影響による従来型ソフト・サービスの価格下落が起こる」(奥田陽一社長)とみて、将来のオンデマンド化に備える。
とはいえ、「顧客はよりよいサービスを安く提供するSIerに流れる。顧客からの受注がとれなければ下請けに甘んじるだけだ」と気を引き締める。顧客は流動的になり、元請けになれるSIerの寡占化がますます進行すると予測する。
JBCCホールディングスは今後3年で20-30億円をシステム運用管理センターやデータセンターなどに投じる。「ソフトウェアのサービス化に備える」(石黒和義社長)ための先行投資に力を入れている。
住商情報システム(SCS)もデータセンターを増床するなど積極的な投資を行う。今すぐ売り上げや利益に結びつかなくてもOSSやSaaS、ウェブ2.0などの考え方はいずれ収益の柱になる。「自社の特徴を出せる新規ビジネスを数多く伸ばし、顧客をつかむ努力が欠かせない」(阿部康行社長)とみる。製品やサービスの単価が下がる分、顧客を増すことこそが売り上げや利益に貢献するビジネスにつながる。

ハードウェア販売や個別ソフト開発が消滅するわけではない。だが収益の柱は時代とともに移り変わる。投資体力がある今こそ環境変化に備えた投資を行い、3年後、5年後の収益の柱となる事業を多数育てていく必要がありそうだ。
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