産学協同PBLにみる人材教育

　ソフト開発ベンダーの経営者たちは「人材こそ財産」だと口をそろえる。コストの大半が人件費で、競争力を生み出す源泉も技術者のスキルにあるのだから無理もない。優秀な人材はベンダー間で奪い合いだ。

　先日、ソフト開発者・プロジェクトマネジャーの育成を目的とした産学協同PBL（プロジェクト・ベースド・ラーニング）「コラボレイティブ・マネジメント型情報教育」の成果発表会を聞く機会があった。慶應義塾大学環境情報学部の大岩元教授が中心となり、プロジェクトをベースにソフト開発とは何なのかを産学協同で学んでいく教育手法である。

　ソフト開発会社などから派遣された若手マネジャーとソフト開発を行う学生がチームを組んで学内などからソフト開発のニーズを聞き出して〝受注〟する。限られた時間や開発リソースの制約のもとでプロジェクトを完遂する。規模は小さいものの開発途中での急な仕様変更、品質の悪化、スケジュールの遅れ、メンバーの突然の病気入院など、実際のプロジェクトでも起こりうるさまざまな問題が次々と発生したようだ。

　経験不足の若手マネジャーと技量不足の学生のコンビでは致し方ない面もあるが、こうした課題を克服する過程で問題点が浮き彫りになって初めてスキルアップが図れる。

　なにより顧客の要望をプロジェクトに落とし込み、最終的に顧客に対価を支払ってもらえる商品に仕上げる「ソフト開発の本質的な目的」（大岩教授）を共有できる点に意義がある。開発のための開発、技術のための技術ではなく、顧客の課題を解決し、要望を満たしてこそ真のソフトであろう。

　この産学協同PBLは先進的な取り組みである。文部科学省は社会的要請の強い政策課題に対応したテーマであるとして「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択したほどだ。大学や高等学校の情報教育では依然、コンピュータの仕組みやプログラミング言語の習得に偏重する傾向が強い。企業と教育機関の連携もなかなか進んでいない。

　ソフト産業にとって、どんな人材がほんとうに価値のある人材なのか。まずはこの点を明確にしなければ教育機関との連携もおぼつかない。大学や専門学校、高等学校などさまざまな教育機関に対して「ソフト産業にはこういう人材が必要だから育ててくれ」という具体的かつ十分なメッセージを出さないまま、「人材が不足している」と嘆くのは身勝手すぎる印象も受ける。

　以前に比べて手組みのソフトが減り、代わりにパッケージソフトやオープンソースソフト（OSS）が多用される時代。中国やインドなど海外の優秀なソフト開発技術者は、てぐすねを引いて日本からの発注を待ち構える。オープン化が著しいソフト業界では、職人気質の技術本位だけで国内およそ60万人の情報サービス産業の雇用規模を維持するのは難しい。

　ITベンダーはソリューション志向でなければならないという。ソリューションとは課題解決型の顧客本位の考え方である。ならば教育機関ともっと密に連携して、顧客本位の技術者の育成に取り組むべきではないのか。