MSFの「GMI2006」に成果

通信事業者とベンダーの連携がカギ

　ワールドワイドの通信事業者やネットワーク機器メーカー、NIerなどで構成される団体「マルチ・サービス・フォーラム（MSF）」は、米国と英国、日本、韓国の4か国が参加した通信事業者のグローバル相互実験「GMI2006」が好成果をもたらしたと発表した。この実験結果ですぐにでも稼働に結びつくというわけではないが、システム構築の実現に向けた要因や課題が判明したという。実験成果は各国によってさまざまだが、次世代ネットワーク網の構築には通信事業者とベンダーの連携強化がカギであることをMSFが裏づけたことになる。（佐相彰彦●取材／文）

■6項目の課題が浮上

　「GMI2006」に参加した通信事業者は、米国のベライゾンとニュー・ハンプシャー大学の互換性実験室（UHL－IOL）、英国のブリティッシュテレコム（BT）とボーダフォン、韓国の韓国テレコム（KT）、日本のNTTグループだ。IMS（IPマルチメディアシステム）フレームワークによるFMC（固定電話と移動通信の連携技術）サービスをマルチベンダー間で提供可能かどうかをテストした。

　この実験には、ネットワーク機器メーカーやサーバーメーカーなど約30社のベンダーも参加した。200種類以上の製品を活用し、150種類程度のテストケースを実施。MSF会長を務めるBTグループCTOのロジャー・ウォード氏は、「実証実験では、通信事業者や大手メーカーの意向だけでなく、参加企業すべてがIMSに最適なシステム案を出し合った。協調関係を深め、通信事業者が求めているもの、メーカーが提供できるものを議論した」としている。

　GMI2006で分かったことはIMS実現に向けた課題だ。具体的には、（1）QoS（一定の通信速度を保証する技術）のシステム構成が業界内で一貫した導入がとられていない（2）各メーカーのアーキテクチャがさまざま（3）適したIMSターミナル機器が存在していない（4）認証に必要な操作が多すぎる（5）異なるネットワーク間のローミングサービスに問題が生じた（6）SIP（通話制御プロトコル）ベースの通信経路が未発達であることからQoSが低下する──など。ウォード氏は、「こうした課題の浮上で通信事業者にとっては、どのような次世代ネットワーク網を構築すべきなのかを認識できた。メーカー側にとっては、次世代ネットワーク構築が可能な製品開発の糸口になったのではないか」とみている。MSFでは、実証実験を07年から08年にかけて再び行う計画を立てている。

■各団体による協調関係の動きも

　この実証実験は、国際電気通信連合（ITU）や欧州電気通信機構などがリアルタイム音声やマルチメディア会議などの次世代ネットワーク技術の規格として標準化を進めている「リリース1」に基づいたものだという。そのため、「独自技術の製品やシステムを開発しているわけではない。実証実験で成功に結びついたシステムは、そのまま標準化につながる」（ウォード氏）。

　次世代ネットワークの実現は、技術や規格の標準化を進めることが1つの突破口になりそうだ。このほど香港で開催されたネットワーク関連製品ベンダーや協会などが集まるイベント「Net Events2006」では、各団体が標準化に向けた取り組みをそれぞれ発表した。メトロイーサネット関連製品の標準化を進める団体の「メトロ・イーサネット・フォーラム（MEF）」では、「次世代ネットワーク稼働には、メトロイーサネット関連製品が欠かせない。当団体では標準化が整っている。ほかの団体と次世代ネットの実現に向けて支援していきたい」（ナン・チェン会長）との意向を示す。また、同団体の参加企業であるアイオメトリクスシステムズでは、「キャリア向けの高速イーサネット製品をケーブル会社が導入しつつある。メトロイーサネットの需要が広がっていることから、サービスの標準化が重要になってくるだろう」（ボブ・マンデビル社長）とみている。

　ITUでは、「技術や規格の標準化に加え、地域間の格差を埋めるデジタルデバイドも払拭しなければならない」（A.レザ・ジャファリ・ITUテレコム2006委員長）としており、ITやネットワーク関連の“未開拓地域”といわれているインドやロシア、中東などを中心にインフラ整備の必要性があることを訴えている。

　ワールドワイドレベルの各団体による技術や規格の標準化が進めば、通信事業者による次世代ネットワーク網の構築が進む可能性が高い。国内では、NTTを中心に2008年度にシステム構築のピークに達し、2010年度までに法人市場でも次世代ネットワークに関するリプレース需要が立ち上がるとの見方がある。メーカーやNIerにとっては、標準化の動きを把握しつつ、規格に基づいた製品開発や最適な製品を仕入れることがネットワーク機器の販売を増やすことにつながるといえる。