強み生かしRIA事業立ち上げ

　アドビシステムズが独自のクライアントソフト基盤の開発を進めている。これまで文書フォーマットの「Acrobat」や動画ソフトの「Flash」など個別のソフトは持っていたが、相互の連携は十分にできていなかった。今後は既存の技術を融合させる基盤となるミドルウェアを投入することで、独自のクライアントソフト＝リッチインターネットアプリケーション（RIA）ビジネスを軌道に乗せる。

　Acrobat、Flashは事実上の業界標準（デファクトスタンダード）として広くユーザーに普及している。ユーザー数の多さを武器に、独自のRIA基盤を確立し、関連する自社製品の拡販に結びつける考えだ。

　RIAは、AcrobatやFlashの技術をベースに見やすい文書や美しい静止画、滑らかな動画を組み合わせた文字通り〝リッチ〟なクライアントソフトを実現するものだ。これに業界標準のHTML、Javaなどを巧みに活用することでハードウェアやOS、ブラウザへの依存をなくし、ユーザーや開発者の利便性の向上を狙う。既存のインターネットブラウザでもなく、ハードベンダーなどが開発したシンクライアントでもない〝第三の勢力〟を目指す。

　アドビは従来、グラフィックソフトなどデジタルコンテンツ制作ソフトを事業の柱としていた。出版や写真の業界ではアドビ製品の熱烈な支持者が存在し、コアなユーザーに向けて〝堅実、誠実〟に製品をつくってきた。

　しかし、2005年12月にインターネット技術に強いマクロメディアを買収してから変化し始めた。従来得意としてきた領域から踏み出してインターネット分野への進出を加速。1年あまりたった今、ようやくその一端がみえてきた。

　今年度に入り、RIAの基盤となるミドルウェア「アポロ」（開発コード名）やバックエンドの業務システムとRIAを連携させるミドルウェア「スコーピオ」（同）の開発ロードマップを相次いで発表。年内には新製品として投入する予定だ。

　昨年度（06年12月期）のグローバルの連結売上高25億7500万ドル（約3000億円）ベースで見るとコンテンツ制作ソフト関連事業の売り上げが全体の約55％を占め、Acrobatなどオフィスワーカー向け関連事業が約26％を占める。両主力事業を合わせると全体の約8割に達する。RIAを立ち上げることで、より広い範囲の企業ユーザーや業務アプリケーションの開発者向け市場への進出を本格化させる。コンテンツ制作ソフトやAcrobatへの依存傾向が高かった従来のビジネス構造の変革を促進する狙いがあるものと思われる。

　課題もある。業務システムと密接に連携して動くRIAだけに、納入にあたっては関連技術にたけたSIerの協力が欠かせない。従来はAcrobat関連など限られた接点しかなかった大手SIerなどとの関係強化が求められている。アドビでは今年夏までをめどに認定パートナー制度の新設を計画するなど、「SIerとの連携強化」（ギャレット・イルグ社長）を急ピッチで進める。RIAビジネスをともに推進するSIパートナーをどれだけ充実させられるかが、事業拡大のポイントになりそうだ。