NAS／DASか、それともIP－SANか

メーカーにより異なる重点製品

　ストレージメーカーによるSMB（中堅・中小企業）向け事業で重点製品に違いが出てきた。これまでSMB向けには、ストレージ機器の販売として「NAS（ネットワーク・アタッチド・ストレージ）」や「DAS（ダイレクト・アタッチド・ストレージ）」が主流だった。しかし、IPベースでSAN（ストレージ・エリア・ネットワーク）が可能な「IP－SAN」の拡販に力を入れるメーカーが出始めている。2007年度のニーズに適した製品は、既存のNAS／DASなのか、それとも新技術のIP－SANなのだろうか。（佐相彰彦●取材／文）

■低価格や簡単管理を武器に　IP－SANの普及を加速

　IP－SANシステムの拡大を打ち出したのは日本ヒューレット・パッカード（日本HP）とデルの2社。

　日本HPは、統合ネットワーク型ストレージシステム「HPストレージワークス・オールインワン・ストレージシステム（AiO）」を軸に、SMBのストレージ需要を増やす方針だ。

　「AiO」は、100万円以下という安価な価格設定が一番の売り。また、操作画面に基づいてストレージ管理や拡張、データ保護を行えることや、ウィザードで容量管理やサイズ拡張、スナップショットの設定が可能であるなど、ユーザー企業がSANを簡単に管理できることが特徴だ。

　エンタープライズストレージ・サーバ統括本部ストレージワークス製品本部ビジネス開発部の菅澤由恭氏は、「DASを構築しているSMBがまだまだ多い。FC（ファイバーチャネル）－SANスイッチが高価格であることから、ネットワークストレージへの投資負担が重いことや、システム運用が難しいという意識が強い。低価格であることが最重要課題」と、AiOを市場投入した理由を語る。これまで同社もSMBへの販売でDASが多かったのが実情だ。そこで、IP－SANで安価にSANが構築でき、しかもシステム管理者にストレージに関する専門知識がなくても運用できるシステムの販売に踏み切った。「SMBにSANを普及させることが事業拡大のカギ」としており、07年末までにSMB向けストレージ事業を現状の2倍に引き上げる。

　デルは、SMB向けにFCとiSCSIの2種類のインタフェースを搭載した統合型ストレージ「CX3－10c」を発売。データの保護や複製機能の統合で高管理機能を追求したほか、既存のIPネットワークが活用可能なiSCSI接続に対応することでSMBが導入しやすいようにした。

　エンタープライズマーケティング本部ストレージ＆ネットワーク製品部の中井雅也部長は、「FCとiSCSIの両方に対応する製品に仕上げたことで、1000人未満の企業や支店を対象に販売できる」としている。

■好調なNASビジネス継続へ　サーバーオプションでDAS販売も

　一方、SMBに対してはNASやDASの販売増を計画しているのはNECと富士通、日立製作所など。

　NECは、NAS製品の販売が順調で、07年1月末で売上高が前年同期比14％増を達成した。NAS製品として、「iストレージNSシリーズ」をハイエンドモデルからローエンドモデルまで合わせて6シリーズを市場投入しており「他社と比べて製品ラインアップが充実していることから、国内市場で上位シェアを獲得できている」（福田和夫・クライアントサーバ販売推進本部主任）と言い切る。今年に入ってからは、ハイエンドモデル「NS460」の販売を開始した。同製品は、次世代SCSI「SAS」やデュアルコアCPU搭載が特徴で、「中堅企業を対象ユーザーとしている」という。同製品の販売増を含め、今年度全体ではNAS製品で前年度比15％増を見込んでいる。

　富士通でも、NAS製品の販売が好調で、ストレージ機器「エターナス」シリーズのローエンドモデル「SX300」や「NR100F250」の販売台数が「今年度（07年3月期）第3四半期で前年同期の1.5倍」（佐々木一名・プロダクトマーケティング統括部エンタープライズサーバ部長）という。今後も、堅調に推移するとみており、「07年度は、ローエンドモデルの台数で20％超の伸び率を目指す」としている。

　日立製作所では、大企業向けSAN事業を手がける一方、「SMBでは、サーバーシステムのオプションとしてDAS製品の提供が多い」（宮川祐史・事業企画本部企画部主任技師）という。販売に関しては、「台数で前年と比べて数倍に膨れ上がっている。当面は、DAS製品に関するニーズが続くのではないか」とみている。

■市場創造か、ニーズ適応か　読みを間違えれば事業縮小に

　各社によって07年度の重点製品に違いが出ているのは、ユーザー企業のなかにIP－SANに対する不安感があるためだ。NASがLANネットワークに直接接続、DASがサーバーに直接接続するのに対して、SANは複数のサーバーとストレージをネットワークで接続する。SANシステムはFCで専用ネットワークを構築することが主流になっているが、高価であることからSMBが導入するケースは少ない。そこで、IP－SANがSMB市場に出てきたわけだが、ユーザー企業にとってはIPベースで果たしてFC同様のシステムを構築できるのか、との疑問が生じているわけだ。

　日立では、「SMB向け事業を拡大するうえで、iSCSIは注目すべき。しかし、ユーザー企業が技術面で問題がないかどうか慎重になっている。だから、今は時期尚早」（富永和雄・事業企画本部製品企画部長代理）とみる。NECでは、「SMBでストレージ需要が増えているのは、バックアップやリモート運用で活用しているため。現段階では、SANを構築するまでのニーズが出てきていない」（福田主任）としている。富士通でも、「IP－SANの普及に期待している。しかし、NAS製品が売れていることからも、07年度にニーズが高まるとはいえない」（佐々木部長）と判断している。

　IP－SANビジネスに力を注ぐメーカーでも、「現段階でIP－SANに対するニーズが高まっているとは言い難い」（日本HPの菅澤氏）と認めるものの、「メーカー側から市場をつくっていかなければ需要増を見込めない。低価格で導入できるとの理解がすすめば急速に立ち上がるのではないか。他社に先行することを考えれば、今後1年間が勝負」とみている。デルでは、「NASとSANが融合の方向に進んでいる。こうした流れをユーザー企業に訴えていくことで、まずは中間に位置づけられるIP－SANビジネスの拡大を図る」としている。

　市場創造とニーズ適応のビジネスのどちらが07年度で成功するのか。読みを間違えれば、ストレージ事業が縮小を傾向に陥り、大きな痛手を負うことになる。