ニュージーランドのIT企業の日本進出が増えている。医療や災害復旧など特定分野に特化することでビジネスの迅速な立ち上げを狙う。世界の大手ITベンダーに比べて総合力では及ばないものの、特定分野での“ナンバーワン”を目指すことでビジネスの拡大を図る。ニュージーランド政府も自国IT企業の日本進出を強力にバックアップしており、進出企業が今後さらに増えることも予想される。

　ニュージーランドでは1990年代前半からIT産業が急速に成長。近年では年率2割近い勢いで伸びており、昨年はGDP（国内総生産）の5.8％を占めた。同国政府では2012年までにGDPの10％まで高める目標を掲げており、達成には日米欧をはじめとする主要市場への進出が欠かせないと判断。この一環として自国IT企業の日本進出を積極的に後押しする。

　ただ、同国IT産業の事業規模を実数でみると約60億ニュージーランドドル（約5800億円）と小さく、世界の大手ITベンダーと総合力で及ばない。そこで打ち出したのが特定分野に特化するビジネス戦略だ。

　たとえば、医療機関の情報共有や、IBM製ビジネスサーバー「iシリーズ」のディザスタリカバリ（災害復旧）に特化したシステムなど、「ニッチだが、この分野ではどこにも負けない」（ニュージーランド政府貿易経済促進庁のエリカ・ゴッイ・ICT部門マネージャー）製品やサービスで市場開拓を狙う。

　同国の医療機関は世界で最も進んだ医療ネットワークを構築していることで有名だ。地域の診療所も含めて全体の約98％が電子カルテを採用しており、かつ病院間の情報共有によって過去の治療履歴などを医師が容易に調べられるインフラを構築。この領域で実績を積んできたITベンダーがオリオン・ヘルスである。医療向け情報共有を柱としており、現在、日本向けの営業を活発化させているところだ。

　オリオンの昨年度（07年3月期）売上高は前年度比約4割伸びるなど急成長している。大手ITベンダーが電子カルテやオーダリングなど基幹システムに注力するなか、情報共有の仕組みに特化することで競合を回避。逆に「大手ベンダーと組んでビジネスを展開する」（ハリーシュ・パーンチャール・ディレクター）ことに成功した。北米でのビジネスが好調で売上高全体の半分余りを米国やカナダで稼ぎ出す。

　一方、マキシマム・アベイラビリティーはiシリーズ向けの災害復旧システムに特化することで、営業リソースの分散を防ぎ、着実に顧客を獲得する戦略に出る。IBMの認定ビジネスパートナーであるメリットを生かし、日本IBMや国内IBMビジネスパートナーとの連携も強めている。現在、日本国内には約2万社のiシリーズユーザーがあるが、このうちリアルタイムで遠隔地にバックアップしている企業は300社にも満たないという。「地震国であることを考えれば需要は大きい」（半田和也・副社長）と判断、日本進出を加速させる。

　マキシマムは売上高全体のうち約8割が欧米など本国以外で稼ぐ。オリオンと並び、外貨を稼ぐ優良企業である。規模は大きくなくとも果敢に海外へ進出し、ビジネスを伸ばすニュージーランドIT企業の姿勢は、日本のISVなどのITベンダーも見習うべきところが多い。