アライアンス戦略を加速

内田洋行、パシフィックシステムと三者協業

　日本IBMは内田洋行と、プラント加工系の製造業に強い中堅SIerのパシフィックシステムとの三者協業に乗り出した。共同開発した鉄鋼流通・加工業向けのERP（統合基幹業務パッケージ）製品を11月から発売する。日本IBMと内田洋行は2年ほど前から協業を模索してきたが、今回、ようやく具体的な“成果”にこぎ着けた。大塚商会グループともERPをベースとした協業を本格化。また、業種業務に特化したISVとの連携も進めている。アライアンス戦略を加速させることで自社製ミドルウェアやハードウェアの拡販につなげる構えだ。（安藤章司●取材／文）

■他社系列のSIerに焦点

　日本IBMは、データベースソフトやアプリケーションサーバーなどミドルウェア販売戦略の一環として、大手SIerやISVとの連携を強化している。これまで富士通とのつながりが強かった内田洋行にもアプローチ。内田洋行は2005年夏までにIBM製データベースソフト「DB2」への対応を表明したものの、「これまで交流が少なかった」（内田洋行の谷口重太郎・ソリューション2課長）ことから、なかなか協業が具体化しなかった。

　だが、ここにきてようやく成果が出始めた。太平洋セメント系の中堅SIerでセメントや鉄鋼などプロセス加工系の製造業に強いパシフィックシステムが開発した業種テンプレートと内田洋行の主力ERP「スーパーカクテルデュオ」、DB2、IBM製ハードウェアを組み合わせた鉄鋼流通・加工業向け業種特化型ERP「パーフェクトスチール」が完成。本格的な販売を始める。

　実際問題として、IBM製ミドルウェアへの“対応表明”だけでは、ビジネスの立ち上げは難しい。今回のケースでは、日本IBMが調整役に入る形でパシフィックシステムと内田洋行を引き合わせ、およそ1年がかりで新製品を開発した。これを日本IBMや内田洋行が持つ販売チャネルに結びつけることでビジネスを具体化させる計画だ。「日本IBMによるマッチングがなければ、今回の協業はなかった」（内田洋行の谷口課長）と、日本IBMの周到な根回しがあったことを明かす。

■販路活用で全国展開へ

　販売ターゲットの鉄鋼流通・加工業は、全国に3000社近くある。ニッチな業種ではあるものの「地方の比較的規模が小さな工業団地でも1－2社は入居している」（パシフィックシステムの斎藤巧・営業部長）と、広範囲に点在。関東を地盤とするパシフィックシステムにとって、全国販路を持つ日本IBMや内田洋行は魅力的なビジネスパートナーだ。

　以前は顧客の要望に沿って基幹業務システムをゼロから開発することもあったが、ERP部分のパッケージ化が進み、納期短縮やコスト削減をより強く求められていた。スーパーカクテルデュオをベースに開発を行うことで、パシフィックシステムが本来得意とする業種業務の領域に開発リソースを集約。鉄鋼加工に欠かせない加工管理機能や業界特有の取引形態などに標準で対応した。「短期間で、割安感のある業種特化型ERPに仕上げることができた」（パシフィックシステムの早川和一・ソリューション1部長）と話す。

　一方、内田洋行は食品メーカーや包装資材卸、住宅設備機器卸といった業種特化を進めており、パシフィックシステムが持つプロセス系製造業の業種ノウハウはスーパーカクテルデュオの販売増に結びつくメリットがある。

■SIer、ISVと相次いで連携

　また、内田洋行はスーパーカクテルシリーズの販売に精通したビジネスパートナー約100社が組織する「ユーザック会」を運営しており、差別化しやすい業種特化型の商材の拡充はユーザックのパートナーにとってもプラスになる。パシフィックシステムも、昨年末までにユーザック会に加盟した。これに日本IBMの持つ販売パートナー網を活用するなどして、3年後には年商5億円のビジネスに育てる計画。中国などアジア経済の拡大などで「鋼材需要が高まり、価格が堅調に推移している」（パシフィックシステムの玉置光史・営業部担当部長）ことから、IT投資の拡大も期待できる。

　折しもほぼ同じタイミングで、大塚商会とグループ会社のOSKが共同で開発したERP新製品がDB2への対応を発表。日本IBMの有力ビジネスパートナーとの協業による販路を提供するなどして、ビジネスを具現化していく構えだ。

　SIerのみならず、DB2関連ではジャストシステムのXMLアプリケーション基盤「xfy」関連で協業を強化。アプリケーションサーバーのWebSphere関連では帳票システム開発のウイングアークテクノロジーズや、生産管理システムを開発するクラステクノロジーなどと連携を積極化させている。

　旧来のハードメーカーとSIerとの関係をあえて打ち破り、新たに獲得した販売チャネルを武器に有力ISVとの結びつきを強める。こうしたアライアンスによるメリットを前面に打ち出すことで、自らのミドルウェアやハードウェア製品の拡販といったビジネス拡大につなげる日本IBMのしたたかな戦略がうかがえる。