日本IBM(大歳卓麻社長)は、SMB(中堅・中小企業)向けビジネスの規模を2010年までに倍増させる。今年に入ってから営業体制を一新。ここ数年かけて整備を進めてきた付加価値ディストリビューション(VAD)をフルに活用し、販売パートナー網の拡充に努める。新規のパートナーも積極的に増やしていくことでビジネス拡大を狙う。これまで国内ベンダーに比べて弱いとされてきたSMB領域で巻き返しを図る。

SMB戦略の推進役を担うのは、日本IBMがここ数年かけて整備を進めてきたVAD流通網だ。現在主要8社のVAD事業者があり、それぞれの営業リソースを駆使して販売パートナー網を拡充している。VADの経営規模を拡大させるため、これまで日本IBMから商材を直接仕入れていた既存の一次販売パートナーを、原則としてVAD経由で仕入れる方式へ順次切り替える。
商流の変更でVAD事業者のビジネスが拡大。投資余力が高まれば、販売パートナーに対する営業や技術面での支援を充実しやすくなる。これによって販売パートナーのビジネスを拡大させ、日本IBMのSBM市場におけるシェア拡大につなげる考えだ。
具体的には昨年1年間で日本IBMからの仕入れが一定額に満たない販売パートナーの仕入れルートをVAD経由に順次切り替える。従来も年間数千万円程度の取引額の下限を設けていたが、昨年はおおよその目安として都市部で約5億円、地方で約2.5億円などとハードルを大幅に上げた。こうした施策で約150社の一次販売パートナーのうちおよそ100社がVAD経由に移行する見通しだ。
大手SIerのJBグループでVAD専業会社のイグアスや日本情報通信(NI+C)などVAD各社の営業努力により、すでに約300社の販売パートナー網を築いてきた。これに一次販売パートナーだった有力ビジネスパートナーが加わることでVADの商流が一気に拡大する。SMB向け商流のうち昨年までに約半分をVAD経由に切り替えてきたが、今年は商流変更をより加速させることで同比率が7割ほどに高まる見込みだ。
日本IBM自体のSMB向けの営業体制も今年から刷新した。従業員数1000人以下の顧客は、原則としてパートナー経由でビジネスを展開する方針をさらに徹底する。
例えば、日本IBMのSMB営業担当者は、まず特定エリアのSMB売り上げ目標を設定。顧客が日本IBMとの直取引を望むなど一部ケースを除き、売り上げは販売パートナーに依存することになる。既存パートナーのビジネスを拡大させ、かつ新規のビジネスパートナーを開拓しなければ「数字の達成は難しい仕組み」(日本IBMの石倉純・パートナー事業パートナー・マーケティング部長)にした。SMB向けの人員も拡充し、パートナー支援を強化する。
VAD同士の競争も激しさを増す。日本IBMの商流変更はVADにとって大きなビジネスチャンスになるだけに、販売パートナーを奪い合う様相を示している。
最大手のイグアスは総合力を生かしたビジネスを展開。競合するNI+Cは、IBMプラットフォーム上で動作するISV(独立系ソフトウェアベンダー)製品をVAD経由で仕入れるとデータベースやアプリケーションサーバーなどのIBM製ミドルウェアが割安になる制度を活用。ソフトウェア商材の流通拡大に「他社に先駆けて取り組む」(NI+Cの富田修二社長)。また、ウェブで受注する仕組みやパソコン、プリンタ、通信機器など取り扱い商材の拡充に努める。VAD同士が競い合うことでサービス品質の向上が見込まれる。
JBCCホールディングスの石黒和義社長は、「商流変更だけではトータルでのビジネス拡大にはならない」とし、独自の営業によって新規販売網の開拓をさらに進める考えを明らかにしている。
日本IBMではパートナー営業の強化とVADの相乗効果を発揮することで、国内ベンダーに比べて弱いとされてきたSMB事業を2010年までに2倍に拡大させる計画だ。