ITを魅力ある産業に

　情報通信・ソフトウェア関連の224組合で構成する情報産業労働組合連合会（情報労連）が情報サービス業を「魅力ある産業」にするための政策提言を検討している。早ければ今年夏までに第一次の取りまとめを行い、内部でさらに検討を重ねて行政施策のあり方、業界としての取り組み、企業や組合の対応や個々人の意識改革などにつなげていく。

　情報労連は1962年に発足した「電通共闘」が母体。電電公社、国際電電、通信建設労働者など電気通信に関わる労働者20万人が集結した。91年に情報サービス業、ソフトウェア開発業も対象とする現在の形となった。

　これまでも情報通信サービス全般をカバーする全国組織として、賃金や就労時間など労働環境、労働者派遣事業、受発注の多重化、技術者のキャリアパスといった課題に取り組み、中央省庁や業界団体と解決策を協議してきた。なかでも93年から発行している「ソフトワーカーの労働実態調査」報告書は、実態に近い調査結果として評価されている。

　同労連によると、情報通信サービス業の賃金は他産業と比べて遜色はないという。待遇面で目立つのは、第一にキャリアパスが不明瞭なため就業者の動機づけができていないこと、第二にオペレータ、プログラマ、システムエンジニアの職務と職位が合致せず、経験年数が評価基準となっていること、第三にそれをもとに人月単価方式の積算が一般化しているなど、ソフトウェアの価値評価につながる課題も少なくない。

　また多重下請け構造がもたらす弊害として、コンプライアンスの欠如やモラルダウン、システム品質の劣化が指摘されている。特に就労環境については、契約に基づかないサービス残業的な長時間就労が慢性化していることが課題だ。

　「優秀な人材を求めるには、外から見たときこの業界が「魅力のある産業」と評価されなければならない」（杉山豊治政策局長）との観点から、昨年、組織内に専門委員会を立ち上げ、検討を重ねてきた。そのなかで浮き彫りになったのは、長時間就労と技術者の能力の関係だ。能力がある技術者に仕事が集中する一方、時間精算的な長時間就労が就業者間の負荷バランスを崩している。

　「ソフトワーカーの労働実態調査」でも明らかになっているように、労働組合が組織されている企業は規律性をもち就労環境が整備されているケースが多いのに対し、規模が小さく就業者が未組織の場合は就労環境が見劣りする。このことから、「こうした課題は就労条件の改善だけで解決できず、産業政策、企業・組合の対応、個々人の意識の三位一体での取り組みが欠かせない」としている。

　同労連では近く第一次の報告書を取りまとめ、さらに部内で検討を重ねて問題点と解決策を整理する。そのうえで（1）政策で解決すべき課題、（2）業界全体で取り組むべき課題、（3）組合が対応すべき課題、（4）個々の技術者が取り組むべき課題の4つに体系化し、中央省庁や情報サービス関連の業界団体および労働組合などに協議を呼びかける。情報サービス業は就職先として魅力を感じない業種の一つとされているだけに、働く者の立場からの提言に耳を傾ける必要がありそうだ。