移動体通信事業者が法人向け事業の拡大を図っているのは、ユーザーの囲い込みが目的だ。同じ電話番号で通信事業者の変更が可能な「番号ポータビリティ」が始まって以来、個人向け携帯電話市場は価格・料金を中心に激しい競争が繰り広げられている。そのため法人ユーザーを囲い込み、市場で確固たるシェアを確保する方策を講じているというわけだ。法人ビジネスの拡大を図っていくうえで重要視しているのは、ISVやSIerなどとのパートナーシップ深耕。販売代理店にとっては、どの事業者と組むのが最適なのだろうか。(佐相彰彦●取材/文)
最適なパートナーはどこか!?
■SaaSでISVとの協業強化 SaaSで法人向け携帯電話事業の拡大を図ろうとしているのは、ソフトバンクグループとKDDI。この分野に力を入れている事業者に共通しているのは、ISVや自社アプリケーションを開発するSIerなどとのパートナーシップを重視していることだ。
ソフトバンクBBでは、「ディストリビューション事業でISVやSIerとのパートナーシップは深まっていると自負している。今後は、“キャリア”の部分でも協業が図れるような体制を整える」(中山五輪男・コマース&サービス統括SaaS事業推進部シニアコンサルティングマネージャ)としている。そのため、まずは同社が代理店としてセールスフォースを提供。ほかのベンダープラットフォームを担ぐことも検討しているほか、「将来的には、ソフトバンクグループ自体がデータセンターを使ってSaaS事業に着手することも模索している」ようだ。

KDDIでは、SaaS事業への着手にあたってマイクロソフトと協業するといった、これまでにはないアライアンスが実現できた。マイクロソフトの通信事業者向けSaaSプラットフォームである「CSF」を基盤にアプリケーションサービスの提供に力を入れていることが主な目的だが、ISVに近づくためにマイクロソフトを利用したともとれる。ただ、マイクロソフトにとっても通信分野のビジネスが拡大するという点で大きい。両社がメリットを享受できる協業といえそうだ。昨年末には、ISV向け支援プログラムを提供開始。これにより、6社がSaaSアプリケーションを開発することになったのだ。桑原康明・ソリューション事業統轄本部戦略企画部長は、「今では、さまざまなISVと話を進められる状況。SaaSを切り口に、多くのアライアンスを組んでいく」方針だ。
■システム連動の容易性を追求
ウィルコムでは、Vista搭載のモバイル端末が「ISVやSIerとの協業をさらに強化していくカギとなる」(立石篤申・事業促進部長)という。現段階ではWindowsモバイル搭載の「W-ZERO3」を提供しているが、モバイル端末で業務アプリケーションを使えるようにするためには、「ISVにとって開発しづらい点もあるのではないか」とみている。社内システムと同じOSを採用すれば「システム連動が容易であることに加え、社内システムのリプレースを促すきっかけのひとつとしてモバイルが寄与する可能性が出てくる」としている。
システム連動の1つとしてMtoM(マシン・トゥー・マシン)に力を入れているのはNTTドコモと日本通信。NTTドコモの有田浩之・法人ビジネス戦略部技術戦略担当課長は、「自動販売機をはじめ、あらゆる機械で携帯電話のモジュールが搭載される可能性を秘めている」という。パートナーとしてソフト開発系SIerが考えられるが、NTTデータをはじめグループ内にSIerが存在する。グループ以外のベンダーとパートナーシップを深めたいのであれば、支援制度の強化などが必要といえよう。
■新規参入だけに未知数
新規参入組なだけに未知数なのはイー・モバイルだ。当面は、ほかの事業者よりも通話料金が安いなど価格面を強みにしているが、ソリューション提案が出てくれば大きく化ける可能性を秘めている。というのも、後発で提供開始したデータ通信サービスが法人市場で花開いたからだ。「さまざまな切り口で攻める」(千本倖生会長兼CEO)としているだけに、SIerとのパートナーシップが重要なアイテムになりそうだ。
日本通信では、自社ブランドの携帯電話を市場投入するにあたり、ネットワークインテグレーションで定評のある兼松コミュニケーションズと販売契約を結んだ。当面は二人三脚でビジネス拡大を図っていくが、「ユーザー企業へのアプローチを広げるには、さまざまな協業が必要」(沢昭彦バイスプレジデント)と販売代理店を拡充することを示唆する。
果たして、どの通信事業者が法人市場で主導権を握ることになるのか。法人向け携帯電話事業の拡大がソリューション提供にシフトしつつあることからしても、法人ニーズを捉えた販売代理店を獲得した事業者がシェアを伸ばすことは間違いない。