需要つかみ売り上げ倍増

　富士ソフト（野澤宏会長兼社長）のデジタル映像事業が広がりをみせている。最新鋭の映像設備を完備し、昨年2月に竣工した東京・秋葉原事業所でのビジネスが本格化。昨年度（08年3月期）の同事業の売上高は前年度比約2倍に増えた。デジタル放送やインターネットでの映像配信の需要が高まるタイミングと合致したことがプラスに働いたようだ。

　同社のデジタル映像ビジネスの拠点である秋葉原事業所が本格的に稼働を始めて1年余り。デジタル放送やパソコン、モバイルなどあらゆるデジタルメディアに対応した高い映像技術が評価され、売り上げが急速に伸びた。

　昨年度の期初目標としていた“前年度比3倍増”までには至らなかったが、主力事業の1つである映像配信サービスでは損益分岐点をクリア。多大な投資を行った秋葉原事業所の一部が採算ベースに乗り始めた。「映像配信サービスではe－ラーニングなどの分野で固定客が増え、収益基盤が安定した」（石田正樹・映像事業部事業部長）と手応えを感じている。

　また、ここ1－2年でさまざまなメディアに採用が進む高精細、高品質なデジタル映像圧縮技術「H.264」方式には、業界に先駆けて取り組んできたこともプラスに働いた。H.264はブルーレイや携帯映像プレーヤー、デジタル放送、インターネット配信などで採用が相次ぐ。だが、新しい技術だけに、機材やソフトの組み合わせ、配信するメディアに合わせたパラメーターの設定などのノウハウが欠かせない。規格が制定されて間もない「4年前から手がけた」（大竹克明・副事業部長）実績をもつ。

　昨年度は投資ファンド経由で映画制作に一部出資。映像制作を請け負うだけでなく、より主体的に映像コンテンツを制作するビジネスへの進出を模索する。一方で、一般企業の製品プロモーションに用いる映像制作のビジネスも拡大。映像業界と一般企業の両方でそれぞれ収益の柱を増やす方針。映画やドラマ、テレビ番組など映像業界の需要だけでは市場が限られる。一般企業向けの広範な需要を取り込むことで成長を加速させる。

　高精細な映像コンテンツを制作・配信する引き合いが強いことから、今年度（09年3月期）も昨年度と同様、前年度比2倍程度の売り上げ増を見込む。2011年度には映像事業関連で年商100億円を目指す。SIerが映像事業に本格進出したケースはまだ少ない。同社の取り組みは、ソフト開発やシステム運用といった持ち前のITの知見がどれだけ映像ビジネスに生きるかのモデルケースとして注目を集める。