「本」から「ノート」への動きも

　電力が不要で、紙のように薄くて視認性が高い“夢の表示装置”、これが電子ペーパーだ。紙の長所ももちあわせる、携帯に便利なディスプレイである。書き換え時にわずかな電力を使うだけで、表示中の電力は不要。半永久的に表示できる。そのうえコントラストが鮮明で、文字の読みやすさも紙と同程度。全く新しい表示装置として注目を集め、各社の開発が進んでいる。本格的な実用化を目前にした電子ペーパーの現状を探った。

紙に代わる新たな表示媒体
4年後には500億円市場に

　電子ペーパーは、米Amazonが発売した電子ブック「Kindle（キンドル）」のディスプレイ部分に採用されたり、JR恵比寿駅の改札機に広告パネルとして実験的に使われるなど実用化が進んでいる。反射光式なので暗いところでは読みづらいという、紙と同じようなデメリットもあるが、市場規模は現在100億円程度。2012年には、500億円を超える規模に拡大するとみられている。

　電子ペーパーがここにきて注目を集めている背景には、環境問題に対する関心の高まりもある。紙の代わりに使うことで、紙の消費を抑え、森林保全やインク使用量の削減、焼却によるCO2の排出抑制など、環境負荷を軽減できるのではないかと見られているからだ。ディスプレイとしても大幅に電力消費を抑えることができる。7月に開催される洞爺湖サミットでは、地球温暖化対策をはじめとする環境問題も主要なテーマ。環境にやさしい電子ペーパーも実用化に向けた動きが活発化しそうだ。

3「社」3様の電子表示技術
フルカラーが可能なものも

　この4月に開かれたディスプレイの国際展「Display 2008」では、米イー・インク、富士通／富士通フロンテック、ブリヂストンの3社が電子ペーパーに関する展示を行った。

　米イー・インクは、「マイクロカプセル型電気泳動方式」と呼ばれる表示方式を採用。マイクロカプセルの中にある白と黒の粒子に電圧をかけ、粒子を移動させて表示を制御する。紙と同じく反射型の表示で、視野角はほぼ180度。新聞紙よりコントラストが高く読みやすいうえ、暗い室内から直射日光の室外まで、さまざまな明るさの環境で高い視認性を維持できる。テキスト表示とモノクロ画像に強いのが特徴だ。同社の電子ペーパーを使った製品もすでに販売されている。例えば電子ブックでは、米Amazon「Kindle」はその一つ。またソニーの「LIBRIe（リブリエ）」などにも同社のパネルが採用された。海外ではポイントカードのカード台や腕時計、携帯電話用パネルなどで実際に使われている例もある。

　一方、富士通と富士通フロンテックは、特定の波長（光）のみを反射する「コレステリック液晶」と呼ばれる技術を使っている。液晶に入った光のうち、赤、緑、青など、特定の色のみ反射できる特性を利用し、フルカラー表示も可能だ。同社は無線・有線LAN機能を内蔵した電子ペーパーパネルや曲面にも設置可能な曲面カラー電子ペーパーなども開発。実用化も進めている。企業向けにサンプル販売している情報端末「FLEpia」にも採用した。

　ブリヂストンは、タイヤ製造で得た材料技術やナノテクノロジー技術を駆使し、粒子と液体の中間的特性を兼ね備える「電子粉流体」と呼ばれる物質を開発。電子ペーパー「QR－LPD（Quick－Responce Liquid Powder Display）」に使用している。「QR－LPD」は、超低消費電力ながら紙に匹敵する圧倒的な視認性を備えているのが特徴。パネルサイズもフルカラーでA7－A3までと幅広い。A3サイズの電子ペーパーを2枚使った新聞配信も実証実験の段階に入った。

電子ブックの次は「電子ノート」
専用ペンで書き込みも可能に

　表示することしかできなかった電子ペーパーだが、米イー・インクはエプソンと共同で、電子ペーパーに専用ペンで書き込んだり、消したりすることができる技術を開発した。これで電子教科書や電子ノートなどへの応用も見えてきた。

　米イー・インクをはじめとする海外勢が積極的に電子ペーパーの製品化を進める一方、富士通やブリヂストンなど日本企業は「需要との相談」と製品化に慎重だ。もともと日本の電子ペーパー技術は世界のトップレベルと評価が高い。環境問題への関心の高まりは、電子ペーパーにとって追い風だ。日本の各企業も、そろそろ電子ペーパー製品を市場投入し、本格的な普及を目指す時期に来ているといえるだろう。（津江昭宏）