通信事業者などサービスプロバイダ(SP)やSIerは、SaaS基盤である「PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)」構築の動きを活発化させている。プラットフォームベンダーとの戦略的協業を進めており、今年秋から来年4月にかけて本格的な事業着手に乗り出す。基盤を提供するベンダーにとっては、まさに“濡れ手に粟”で対象ユーザーを広げることも視野に入れる。一方、PaaSがSaaSビジネスの領域拡大につながるとの判断で自社開発を進めるSIerも相次いでいる。
自社開発で強みを生かす動きも
日本ユニシスは、ICTサービス拡大の一手法として、次世代データセンター(DC)活用のSaaS事業に着手した。次世代DCに、HP製サーバーやシスコシステムズ製ネットワーク機器、ネットアップ製ストレージなどの最新製品を導入。仮想化などの採用により高信頼のデーセンター運用を目指す。また、このほどアライアンスを組んだAmazonのウェブサービスとも連携。中堅・中小企業向けのストレージサービスやSPのSaaS事業に適したホスティングなどに対応していく。

日本ユニシスがSaaS事業を本格化することができたのは、きっとエイエスピーと戦略的に協業したためだ。きっとエイエスピーのプラットフォームである「Kit Application Service Platform」の活用で、ビジネススキームの確立や運営体制の整備をイメージできるようになったわけだ。角泰志・常務執行役員ICTサービス本部長は、「今後はSIにとどまらず、サービスインテグレーションも提供できるようになる」とアピールする。
具体的な事業展開は、今年度(2009年3月期)下期からで、現段階で取り組んでいるのがアプリケーションの拡充だ。アプリケーションベンダーにとって、きっとエイエスピーのプラットフォームは自社アプリ製品のSaaS化に向いているという点で、「多くのパートナーシップが組める」と自信をみせる。また、ネットスイートやオラクル、マイクロソフトなどが提供するSaaSを「ビジネスパーク」と呼ばれるポータルに集約することも計画しており、「来年度にはビジネススキームを確立する」としている。
日本ユニシスの動き以前にも、NTTグループがセールスフォース・ドットコムとSaaS分野で戦略的な協業を結んだという例もあるように、最近は通信事業者やSIerによるPaaS構築が相次いでいる。こうした状況下で、ビジネスチャンスが広がっているのはSaaSプラットフォームベンダーである。NTTグループと組むことになったセールスフォース・ドットコムでは、「(NTTグループである)NTTコミュニケーションズが官公庁を顧客として確保しているため、当社も対象ユーザーを増やすことができる」(宇陀栄次社長)としている。
日本ユニシスと協業した、きっとエイエスピーの松田利夫社長は「ユニシスの子会社であるユニアデックスがKDDIと提携していることから、通信事業者に対して当社製品を提供できる可能性が高い」と期待する。KDDIはSaaS事業でマイクロソフトと包括提携を結んでいるが、日本ユニシスが掲げる「ビジネスパーク」でマイクロソフトとパートナーシップを組む計画を立てていることから、きっとエイエスピーが通信事業者に入り込む余地は十分にある。
SaaS事業の柱となるPaaSを構築すれば多くのベンダーとアライアンスを組める可能性が高まる。こうしたことから、開発系SIerを中心にPaaSと同程度のプラットフォームを独自で開発する動きも出ている。つまり、PaaSをいち早く確立したベンダーこそが国内SaaS市場において主導権を握っていけることを意味しているのだ。

「PaaS」とは サービスとしてのプラットフォームという意味。インターネットを介して利用できるSaaSの開発・実行環境でITプラットフォームとビジネスプラットフォームで構成される。
ITプラットフォームは、サービスプロバイダ向けのSaaS開発環境、ユーザー向けのサービス連携、認証・アクセス管理、カスタマイズなどの機能や運用の実行環境から成る。ビジネスプラットフォームは、マーケティングや契約、課金、サポート窓口といったビジネス環境を指す。