日本オラクル（遠藤隆雄・社長CEO）の中堅・中小企業（SMB）戦略が勢いを増している。国内最安値のBI（ビジネス・インテリジェンス）のパートナー拡大や中堅企業向けERP（統合基幹業務システム）「JDエドワーズ」が国産ERPの得意エリアに浸透し始めるなど、昨年8月からの体制強化策が実を結び始めた。同社のSMB市場は年商1000億円弱の企業をターゲットにしているが、「実際の“主戦場”はもっと小さい企業向け」（三澤智光・常務執行役員）と、低価格BIなどを“武器”にマイクロソフトの得意エリアを攻略する。（谷畑良胤（本紙編集長）●取材／文）

パートナー体制強化が奏功

■BIがSMBに新たな選択肢

　日本オラクルは昨年9月、SMBの利用に特化した65万6250円（5ユーザー）の低価格BIツール「Oracle Business Intelligence Standard Edition One（BI SE One）」をリリースした。同BIツールは決算報告書のレポート作成や解析ツール、データ・ウェアハウスを構築する機能など、「2000万円のBIツールに匹敵する機能を持つ」（三澤常務執行役員）ことや、「SMBに新たな選択肢をもたらす」（同）ことを売りに、ISV（独立系ソフトウェアベンダー）やSIerなど、新旧のパートナーと共同でSMBへの浸透を目指してきた。

　これまでの間、同BIツールを利用するような、SMBをターゲットとするISVのERP製品などに組み込む戦略を強化。1年弱で20社のISVとアライアンスを組むことに成功し、すでに同BIをプリビルドした複数のISV製品が登場している。昨年9月段階では、みずほ情報総研や電通国際情報サービスの連結パッケージなど10社が、同BIの利用を表明。最近では、内田洋行などを加え、20社に拡大した。

　今年度（2009年5月期）は、これらISVパートナーが持つERPやCRM（顧客情報管理）、連結パッケージ、生産管理システム、監査ログなどと同BIツールを連携させた数多くのテンプレートを共同作成する。ISVと協業するSIerなどがSMBに低コスト・短納期で導入できる仕組みを構築する。三澤常務執行役員は、「マイクロソフトのデータベース『SQL Server 2008』と同社のBIの組み合せでは、200万円程度になる。機能も国際的な会計システムへの要求事項に応えられる点で異なる」と、低価格や機能差、パートナーの充実度などを背景にSMB市場への浸透を図る。

■マイクロソフトと攻守逆転

　一方、米オラクルが買収で得たERP「JDエドワーズ」に対する「ニーズが高まっている」（三澤常務執行役員）とみており、同社に移行してから同製品がようやく国内に広がりつつあると分析する。JDエドワーズは、システム投資規模が1－2億円程度で導入ベースとなるが、最近では、大企業のグループ会社や関連会社からの引き合いが増えているという。また、JDエドワーズは元々、日本IBMのチャネルで広く販売されていたが「オラクルベースで構築する新規パートナーが増えている」（同）と、手ごたえを感じている。

　同社がJDエドワーズで狙う市場は、マイクロソフトが浸透する年商100－500億円企業の市場と見られ、ミドルウェアベースでの競争が激化しそうだ。マイクロソフトの日本法人は今年度（09年6月期）、新社長体制になって中堅・大企業にまずシフトする構想を打ち出した。この間隙をついて日本オラクルがSMB市場へ本格参入するという構図になっている。

　日本オラクルは昨年8月、SMB専任組織を発足させた。業種業界別の部署や全国8拠点の地域単位にSMBをカバーするなど、“どぶ板”戦略を開始。製品面では、BIツールやJDエドワーズを販売するパートナー制度を強化している。

　昨年度は、SMB市場向け売上高が前年度比20％増の目標をクリアした模様だ。両社の戦いに「SMB市場強化」を謳う日本IBMなども参戦する形で、システムが「二巡目」を迎えたといわれるSMB市場のリプレース需要獲得に向け、激しい戦いが展開されそうだ。