日印合同でIT技術者2万人

　鳥取県では、地場ITベンダーとインド人技術者が共同して国内オフショア（ニアショア）需要の獲得を拡大する構想「ITTR（インド・とっとりITトップランナー）」へ向けた取り組みが始まった。近く共同出資で構想名と同じ社名の「株式会社」を設立。高い技術力を持つインド人を招請し、県内のIT技術者との共同開発や若手技術者の人材育成を開始する。同構想によると、2020年までには2万人のIT技術者を集め、インドのIT集積地「バンガロール」と同様に「TIT（とっとりIT） Valley」の構築を図る。国内IT産業の売上高16兆円の1％でも引き込めれば大きなビジネスとなる。

　同構想を持ち掛けたのは、インド人の実業家でITコンサルティングやシステム開発、旅行部門など3事業を手がけるサクセス・ティー・アール・シー（サクセスTRC）のサチン・チョードリー社長。これに鳥取県の担当者が呼応して県情報産業協会などに協力を要請しスタートした。

　年内には地場のITベンダー経営者などの出資で「株式会社」形式の「ITTR」を設立する。県は「あくまで県はコーディネーションする役目」（山本直生・主幹／産業振興・定住支援チーム長）として、出資はしないもののプロモーションなどで全面的な支援を行う。「ITTR」では県外からのニアショア需要を獲得したり、インドのIT技術者教育のノウハウを生かして人材育成をし県内に技術者2万人を集めて定着を図る計画だ。具体的には、若手人材を育成する「IT人材育成センター」を設置する。

　インド人技術者は、チョードリー社長が経営するサクセスTRCやコンサルティング・研修事業を手がけるチェンジから派遣する。同構想の開始直後は、30人ほどのインド人と日本人の混成チームを結成。国内から1～2億円のITプロジェクトを獲得し開発を進める計画だ。ニアショアの拠点として、まずは国内ソフトウェア開発などの下流工程案件をITTRが受注。当初はITTRが単独開発する。一方で、「県情報産業協会と協議して協会所属のITベンダーとのアライアンスなども検討する」（チョードリー社長）ほか、インド人技術者との共同開発を通じた技術供与を行う意向だ。

　総務省が試算したデータによると、日本のIT技術者は増加傾向にあるものの経済規模に比べ不足している。そこでITTRは、インドから技術者を県に招請し、国内で不足している技術者リソースを補完する。一方、受け入れる側の鳥取県は、県内に若手人材の雇用が少なく、県に残りたいと思っても職がないという実情もある。同構想を受けて、今後県では「Uターン」や「Iターン」でIT技術者の雇用創出を行う方針だ。国内情報サービス産業の売上高は約16兆円。こうした取り組みを拡大することで、このうち1％程度を県内に引き込めれば1600億円のビジネスになると試算している。

　現在、県などではインド人技術者を招請することに備え、インドの生活や考え方を分かりやすく伝えるコミュニケーションペーパーとして「漫画」制作などに取り組む。「実際のインドを克明に伝える市販本はない」（山本主幹）と、コミュニケーションを円滑に図るための本づくりに力を入れる。

　日本では、国内のIT技術者不足や低コスト開発の需要増を背景に、インドや中国、ベトナムなどでの「オフショア開発」が活発化している。一方、国内では、地方の中小ITベンダーが「IT─JV（ジョイントベンチャー）方式」などで、元請けとして大型案件を獲得する動きが出ている。事業戦略の詳細は立案途上だが、山本主幹は「試行錯誤の部分が多い。だが、うまくいかない部分は見直しつつ継続的にビジネスを推進していきたい」と、地域活性化の一助にしようと意気込む。「オフショア開発」による国内IT産業や地場の中小ITベンダーへの需要減速といった、両面の課題を解決する構想として注目を集めそうだ。