流通業向けEDI(電子データ交換)規格「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)」が本格的な普及期を迎えている。今年に入り導入事例の発表が相次ぎ、SIerやISV、電子認証サービスベンダーなどがビジネスに参画。スーパーなど小売業とメーカーを結んだEDI刷新に絡んだSIビジネスも盛り上がりを見せる。(安藤章司●取材/文)
刷新需要でビジネス盛り上がる
■ワコールが流通BMS採用 流通業界では1980年に標準化されたJCA手順を長らく使ってきた。だが、規格そのものがすでに古く、時代にそぐわない。漢字や画像が添付できず、食の安全を確保するトレーサビリティにも十分対応できない。こうした課題を解決するため、XMLをベースとした次世代EDI規格として「流通BMS」が07年4月に公開された。規格策定から1年半余り、導入事例の発表が増え、本格的な普及期を迎えている。
SIer大手でEDIビジネスに強いITホールディングスグループのTISが、総合アパレルメーカー大手のワコールホールディングスに、流通BMS対応のEDIシステムの通信環境を構築したとの発表を行った。TISではワコールの要望に合わせ、既存のEDIシステムで利用されているデータ・アプリケーション(DAL)のEDIパッケージ「ACMS」を拡張して流通BMSに対応する方法を提案。DALは業界に先駆けて流通BMSへの対応を進めており、ACMSを中心に多くの実績があることから同方式の採用が決まった。
■“標準化”を常に意識 流通BMSの最大の特徴は、仕様が公開された「標準規格」である点。インターネットが普及した1995年以降は、大手事業者を中心にインターネットを使ったウェブ対応型のEDIを独自に構築。ある程度は浸透したものの、小売店やメーカーがそれぞれ個別の操作画面(インタフェース)をつくるなど統一性に欠けたものだった。取引先ごとに異なる入力画面を持つウェブEDIに商品情報を入力しなければならず、業務効率が逆に悪化する事態を招くケースも見られる。
ワコールの事例では、大手総合小売業をはじめ百貨店など複数の取引先との相互接続も予定しており、統一性のとれた操作画面など標準規格にのっとったEDI取引を実現する計画である。取引先ごとに構築していたメッセージ処理プログラムの集約が可能になり、開発や保守工程の負荷やコスト削減が可能になる。また、データの取得時間が従来の数十分の一に短縮され、物流リードタイムの短縮や業務の効率化にもつながっている。
流通BMSが標準規格であることを常に意識し、「当社の“個別仕様”にならないように努める」(ワコールの尾内啓男・執行役員情報システム部長)と、独自のカスタマイズなど標準化を損ねることのないよう取り組んでいく方針だとコメントする。
■有力ベンダーが事業強化 食品スーパーマーケットの共同仕入れ機構であるシジシージャパン(CGC)に流通BMSを納入した実績を持つITコンサルティング会社のウルシステムズは、中小の流通関連企業をターゲットとした流通BMSシステムの普及促進に力を入れる。独自に開発した流通BMSシステムのウェブアプリケーション版を今年10月に発売。リコー製の複合機を端末に使う方式に引き続いて、中小企業が導入しやすい形態の品揃えを強化する。大手で採用が進む流通BMSだが、中小企業への普及は遅れがち。この課題を解決することでシェア拡大を目指す。
キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、基幹業務システムとの連携や全国に展開する保守サポート拠点を活用することで流通BMSビジネスの拡大を進める。グループの総合力を生かし、流通・小売業大手の基幹業務システムから全国の中小卸のサポートまで、全方位対応することで他社との差別化を図る。NI+Cインフォトレードは食品・酒類の卸売り国内最大手の国分のEDI刷新に取り組む。取引先によって異なる場合があるEDI方式の差異を柔軟に吸収すると同時に、流通BMSにも対応できる体制づくりを急ぐ。

電子認証サービスのグローバルサインは、今年8月から流通BMSの認証をスタートさせた。これまで、ITホールディングスグループのインテックが唯一の認証サービス会社だったが、グローバルサインの参入で選択肢が増えた。相次ぐ事例の発表や参入ベンダーのビジネス活性化で、流通BMSの普及・拡大が一気に進みそうだ。