「保守」＋「設計・構築・運用」へ

　保守サービス会社の業容変化が顕著になってきた。主軸ビジネスの保守サービスから派生し、情報システムの運用や設計・構築といった領域までビジネスエリアを広げ、それが実績として実を結びつつある。ハードのオープン化による保守サービス単価の下落を補うための策を講じ続け、結果的に変貌した保守サービス会社の動きを探った。（木村剛士●取材／文）

■“おいしい商売”から一転　ハード単価下落で保守は厳しく

　保守サービスとは一般的に、メインフレームやオフコン、IAサーバー、PCなどのハードのメンテナンスサービスを指す。全国に配置するCE（カスタマ・エンジニア）と呼ばれるスタッフが顧客先に出向き、故障がないかを定期検査するほか、万一障害が発生した場合、即座に修理するサービスだ。保守サービス会社とはこれを専門で扱うITベンダーで、複数の拠点と膨大な数のCEを保有する。例えば最大手のNECフィールディングは、約480拠点を保有し、6500人ほどの従業員（ともに連結）を抱える。国内大手コンピュータメーカーは専門子会社を設置し、グループの保守業務を任せている。

　この保守サービス会社はどこも、ここ数年業績低迷に悩み続けていた。理由は保守サービス単価の下落だ。保守サービス料金の価格は、一般的にハード価格に比例する。保守サービスの対象となるハードの価格が高ければ保守サービス料金は上がり、逆に安価なハードであれば下がる。オープン化の進展で、高額なハードから安価なIAサーバーに移行するユーザーが急増したことで保守サービス単価が下がり、それを要因として保守サービス会社の業績は低迷を続けてきたのだ。

　富士通系保守サービス会社、富士通エフサスの播磨崇社長は、「ハードの単価下落は、下げ幅は小さくなっているとはいえ今後も続く。かなり厳しい状況は変わらないだろう」と危機意識を隠さない。また、東芝系の東芝ITサービスの石橋英次社長も、「保守サービス単価の下落は止まったとはいえない」と、共通する見解を示す。

　メインフレームやUNIXなどの高額ハードが主流の時代、保守サービス事業は利益率の高さと、安定した収益が見込めるビジネスモデルから、“おいしい商売”と言われていた。しかし、ミッションクリティカルなシステムでもIAサーバーが使われる現在では状況は一変。売り上げと利益が稼ぎにくいビジネスへと変貌してしまったのだ。

■各社ともに成長分野にシフト　設計・構築や運用に軸足を

　各社の業容変化は、こうした保守サービスの低迷が原因になっている。そこで、保守事業は維持しながらも、次の成長エンジンを他の領域に見出そうとしているのだ。

　富士通エフサスでは、保守サービスの上流工程である設計・構築や運用サービスを強化している。「ITインフラサービスのリーディングカンパニーになる」（播磨社長）目標を掲げ、保守サービスだけではないサービス体制の整備を急いでいる。今年度から設計・構築のプロ集団300人を富士通から移管させて自社に取り込み、設計・構築基盤を整備した。播磨社長は、来年度から3か年の中期経営計画をスタートさせる。その計画では、保守以外のビジネスを伸ばす内容を中心にする可能性が高い。

　東芝ITサービスも同様だ。とくに運用サービスに力を注ぐ。運用サービス事業の2011年度までの年平均成長率10％増という高い目標をぶち上げた。設計・構築事業に関しては、富士通エフサスとは違い他社に任せる方針で、親会社の東芝ソリューションや地場SIerと組んで「設計・構築は他社、運用・保守は東芝ITサービス」という体制を築こうとしている。東芝ソリューションとの連携はほぼ確立しており、今後は東芝ソリューションが回れない地方企業の設計・構築ビジネスを取り込むための、地場SIerとの協業体制構築がカギを握る。

　NECフィールディングは、保守サービス事業単独で今年度中間期で増収増益を達成するが、強化点はやはりシステム運用サービス。システムのアウトソーシングを含めた運用サービスを今後の軸に据えている。低迷を補うための新しい施策により、保守サービス会社とはいえないほどの業態に各社変わりつつある。

■運用サービス強化の裏には　SaaS時代への備えとの意見も

　保守サービス会社にとって今後重要になるキーワードがもう一つある。それがSaaSだ。SaaSが普及すれば、顧客はシステムを自社保有する必要がなくなる。となると、顧客先に出向いて検査したり、故障を直したりする必要もなくなる。全国規模で張り巡らされているサービス拠点とCEの稼働率が下がる可能性があるのだ。稼働率が下がったとしても、「全国一律のサービス提供」を謳わなければならない保守サービス会社は、ビジネスが小さいエリアの拠点でもつぶすわけにはいかない。

　こうした状況に陥った時に、逆に力を発揮するのが運用サービスだ。システムの運用サービスで顧客とつき合っておけば、アプリをサービス提供する際に有利に働く。ある保守サービス会社トップは、「到来するSaaS時代に備える意味がある」と運用サービス事業を強化する狙いを打ち明けている。

　ハードありきの時代から、ソフト中心、そしてサービス中心になることを踏まえて、保守サービス事業の形態はますます変化しそうだ。

もう一つの共通展開

親会社との連携強化

　親会社との結び付きを強めようとしているのも保守サービス会社の共通した戦略だ。

　富士通エフサスは、2004年に上場を廃止し富士通の完全子会社になり、07年には社名を富士通サポート＆サービス（Fsas）から富士通エフサスへと変更した。これを機に「Fsas」という独自のロゴから、グループ会社が共通して使っている親会社のロゴへと変更している。技術者300人の移管など人材交流も盛んに行っており、連携はますます進んでいる。播磨社長は次期中期経営計画について「富士通エフサスだけでなく富士通グループとしての成長には何が必要か、エフサスがグループ経営のなかでどんな役割を果たすべきかを念頭に置く」と語っている。

　NECフィールディングは今年度、ブランドをNECと共通化した。従来使っているロゴマークもNECと同様のものに変えた。片山徹社長は「NECと一体感を持って展開するほうが適切」と話している。

　一方、東芝ITサービスは、昨年4月まで社名をITサービスとしていたが、東芝を冠した「東芝ITサービス」に変更。「東芝や親会社の東芝ソリューションとの連携をさらに強め、顧客先に東芝グループだということをさらに鮮明に伝える」（石橋社長）ための処置だとしている。

　単独で事業展開するよりも、グループとしての相乗効果の発揮を優先する――。保守サービス会社のこうした胸の内が垣間見える。