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BCN記者が選ぶ2008年10大ニュース
2008/12/22 14:53
週刊BCN 2008年12月22日vol.1265掲載
2008年後半は、米国に端を発した「金融危機」に翻弄されることとなった。現在の危機的な状況を、年初に想定し得たITベンダーは少ないだろう。株価下落は多くの企業にダメージを与えることとなった。だがその一方で、株安を奇貨として企業買収が活発化した年でもあった。そうした景気変動にかかわりなく、時代は確実に進歩の足跡を刻んでいる。SaaSやNGN(次世代ネットワーク)など、将来にストックとなるものを模索する動きが顕著になってきた。グリーンITの推進など地球環境保護の動きも根強い盛況ぶりをみせている。
4月15日、マイクロソフトはサーバー向け新OS「Windows Server 2008」を発売した。主要コンピュータメーカーも、同日付で同OS搭載サーバーを販売開始した。
およそ5年ぶりの新OS発売にあたってのマイクロソフトの準備は周到で、発売日に同OS搭載機種を約100モデル、動作するアプリケーションは500種類ほど用意することに成功した。これらの数字は、前OS「Windows Server 2003」に比べて30%増しで、「OSとハード、アプリをすぐに導入できる状況で、SIerの“readiness(準備)”も万端」と樋口泰行社長も自信を示していた。
マイクロソフトの仮想化技術「Hyper-V テクノロジー」を標準搭載したのが最大の特徴で、仮想化をきっかけにした提案によるシステム構築案件増加に期待するコンピュータメーカーは多かった。なかでも、富士通は同技術のメリットにいち早く着眼し、検証施設を新OS発売時点で設けた。
販売を始めた時点では顕在化していなかった日本経済の後退、IT投資力減退でx86サーバー市場は落ち込み、新OSが需要喚起の起爆剤になっているとの声も聞いていない。ただ、新OSが実需に結び付くには、半年から1年かかるのが通例。来年、IT産業を盛り上げる材料になることを期待したい。(木村剛士)
リコーは8月27日、都内ホテルで開いた午後8時からの「緊急会見」で米OA事務機ディーラー大手のアイコンオフィスソリューションズ(IKON社)を1721億円で買収すると発表した。IKON社が販売する事務機器の6割はキヤノン製。リコー製はその半分の3割にすぎなかったが、北米での販社体制を確立するために過去最高額の巨費を投じる英断をした。
北米では2007年1月、プロダクションプリンタ(PP)を持つ米IBMのプリンタ子会社を買収。ところが販路として期待していた事務機ディーラーの米グローバルイメージングが競合の米ゼロックスに奪われた。暗雲が立ち込めるなか、IKON社側から働きかけがあったのをきっかけに獲得を決断。
リコーはここ数年、プリンタ単体売りでなく「ソリューション販売」を指向するディーラー体制の整備を進めている。近藤史朗社長は「ますます直売(直販)傾向が強まる」と、北米に限らず国内を含め、同社の代理店施策の転換点になる買収劇と指摘した。
今年は「県別販社体制」も見直し全国7社に再編。また、ボリューム販売をコミットする「トップ・OA・ディーラー(TOD)」約400社に対し、「ソリューション販売」できる事務機ディーラーやSIerなどの配備を進めている。(谷畑良胤)
今年3月末、NTTグループが推進するNGN(次世代ネットワーク)が本格始動した。これにともない、ブロードバンドサービスとして「フレッツ光ネクスト」を提供。その後も、SaaSとの連携などNGNを生かしたサービスを発表している。
回線が強固になったことから、従来にないサービス提供の可能性に注目が集まる。なかでも、コンシューマ向けコンテンツの充実に加え、法人向けアプリケーションのラインアップに期待がかかる。SaaS関連事業への着手は、法人市場でブロードバンド回線需要を掘り起こす狙いがある。実際、NECなどNGN関連の製品・サービスを体系化したベンダーもいる。
しかし、現段階ではアプリケーションサービスが揃っていないことからNGNによるブロードバンド需要が活性化しているとは言い切れない。また、コンシューマ向けサービスに関してもIP電話とインターネット、映像の“トリプルプレイ”を超えたサービスが出てきていないのが実状だ。
「クラウドコンピューティング」に代表されるように、今後はインターネット経由でアプリケーションを活用するケースが増えてくるだろう。その段階で重要になるのが強固な回線。通信事業者であるNTTとITベンダーとのアライアンスに期待がかかる。(佐相彰彦)
KDDI陣営のWiMAX企画会社、ワイヤレスブロードバンド企画が今年3月1日付で「UQコミュニケーションズ」に社名変更、事業会社として再スタートを切った。
今年はWiMAXサービスの本格化に向けた基盤作りがメインだった。「試験サービス」という形で東京23区や横浜市などで提供を開始するために基地局の設置を進行。同サービスが開始される2009年2月には基地局が1000局近くに達する見通しだ。09年夏には「商用サービス」として本格化を図り、名古屋市と大阪市にまでエリアを広げる。10年3月末までには政令指定都市まで拡大。この時点で、基地局の規模を4000局まで引き上げる。その後も基地局を増やし、13年3月末までには約1万9000局を計画する。この時点で人口カバー率90%を達成すると試算。設備投資額は13年度(14年3月期)までに約1500億円を予定している。
ノートパソコンなどモバイル端末の高速ブロードバンド環境をユーザーに提供できることがWiMAXの魅力。ベンダーにとってはUQコミュニケーションズの「MVNO(仮想移動体サービス事業者)」となってビジネスに着手することが可能となる。そのために、モバイル関連の製品・サービスを提供するうえでビジネスチャンスが拡大する可能性を秘めている。(佐相彰彦)
世界に冠たるトヨタ自動車が、今期(09年3月期)当期純利益の見通しを昨年度実績より1兆1600億円余りも低い5500億円へと下方修正。“トヨタショック”となって産業界に大きな打撃を与えた。間髪を入れず、主に製造業の派遣社員や請け負いなど非正規労働者が万人単位で仕事を失うこととなった。IT業界では日本IBMが08年末までに1000人規模の人員削減を表明するなど雇用問題が表面化した。
実体経済の落ち込みは、情報サービス産業にも及ぶ。ユーザー企業は「すべての投資案件を見直している」(大手SIer幹部)と、これまで比較的順調に拡大してきたIT投資の一部も凍結の対象に含まれると懸念。IT投資は“半周遅れで影響が顕在化する”とされ、来年度上期あたりから受注減少が本格化するとの見方が根強い。09年度の見通しが立たないSIerが多くを占めるなど不透明感が増している。(安藤章司)
7月11日、ソフトバンクモバイルはアップル製携帯電話「iPhone 3G」を発売した。全国のソフトバンク直営店舗や家電量販店では長蛇の列ができる人気ぶり。同日朝7時に先行発売したソフトバンクショップ表参道では1500人以上が行列をつくり、ビックカメラ有楽町店本館では360人以上が並んだ。ビックカメラとヨドバシカメラでは発売イベントを開催。女優の上戸彩さんなどを招いて大々的にアピールした。
企業向けのモバイル端末として使える点も注目を集めた。アップルは、端末発売と同時に「App Store」と呼ばれるアプリのオンライン提供窓口を開設。「iPhone」と「iPod touch」で動作可能なアプリを「iTunes Store」で提供・販売するサービスで、ソフト開発会社は、アップルから無償提供されるSDK(ソフト開発ツールキット)を使ってアプリを開発し、「App Store」で販売できるようになったのだ。
「App Store」で販売するソフトは、ゲームなどコンシューマ向けのアプリとは限定されていない。ビジネスアプリを使う企業や団体も対象だ。日本オラクルは発売同日にBIツールを提供開始し、ドリーム・アーツなどは対応ソフトを発表した。ビジネス用端末としてすでに数社のITベンダーが「iPhone」に注目している。(木村剛士)
具体的には、DCのエネルギー効率を示す“PUE”指標をもとに削減の動きが進展。PUEはDC全体の電力をIT機器の消費電力で割った数値で、1に近ければ近いほど効率がよい。現状の平均は2.5-2.8といわれており、ITの省電力化を推進する団体グリーン・グリッドでは目標値を1.6と位置づけている。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)や富士ソフト、NTTコムウェア、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)などDC事業に強い大手SIerがPUE指標を意識した投資を積極的に行った。
DCをベースとするSaaSやクラウドは初期投資の負担が少なく、月額定額で利用できるサービス型がメイン。従来の開発コストがかさむ手組みのソフトに比べて“不況に強い”とされ、逆風下にある2009年も伸びるビジネスだと期待が高まっている。(安藤章司)
07年12月7日、企業会計基準委員会は、「企業会計基準第15号工事契約に関する会計基準」で、受注ソフト開発を同基準の適用範囲に入れることを決めたと発表。これが、そもそも混乱を招いた発端だ。これまで建設業や土木業に適用してきた会計処理の基準を、ソフト開発会社にも適用させるという。今年1年間、このニュースはソフト会社を翻弄し続けた。
受注(受託)ソフト開発を行う全企業は、プロジェクトの収益を期間で区切って分散計上する「工事進行基準」を実施することが事実上義務づけられた。基本的に案件の規模や手がける企業の年商は問わない。加えて、ソフト開発企業の大半は、「工事完成基準」という別の基準で会計処理している。それだけに、IT業界に与えるインパクトが大きかった。
適用開始は、来年4月1日から始まる会計年度から。今春から対応準備に入った企業が多いが、IT企業の会計監査に詳しい会計士によれば、「“日本版SOX法”や四半期決算の開示に躍起になって取り組んでいるタイミングだけに、大半のソフト開発企業は、『工事進行基準』に対応できないだろう」と語る。来年はひと波乱ありそうな気配だ。(木村剛士)
今年はマイクロソフトが発売した「Windows Server 2008」の付属機能として「Hyper-V」がリリースされた。マイクロソフトでは、競合製品の仮想化ソリューションと比較した際のコストメリットを訴えた。
また、ヴイエムウェアが「VMware ESXi」を、マイクロソフトも単体で「Hyper-V Server 2008」をそれぞれ無償化するなど、敷居が下がり、仮想化がより身近になってきた。
こうしたなか、ヴイエムウェアが今年2月に仮想化環境向けのセキュリティ技術「VMSafe」をAPIとして提供し、セキュリティ製品の開発を支援するなど、安全面での向上も図られている。
また、ソフトウェアベンダーがOSとアプリケーションをセットにした新しい提供形態「バーチャルアプライアンス」も出てきた。
今後は仮想化環境の導入が増えるなか、複雑化した運用管理対策への需要などが伸びていきそうだ。(鍋島蓉子)
両社ともに共通して活用していたデスクトップPCの筺体を製造するメーカーが操業停止に追い込まれ、その筺体部品を入手することが不可能になった。その結果、生産が困難になり、PCの受注停止を余儀なくされたのだ。
とくに企業向けPCで影響の度合いが大きかったのがNEC。だが、同社の対応は素早かった。筺体を製造する際に欠かせない金型を引き上げることができなかったにもかかわらず、受注停止からわずか3週間で再開にこぎつけたのだ。
同社の販売パートナーは、受注停止中に苦肉の策を打ち、手間を余儀なくされたものの、「予想以上に受注再開が早くて驚いた」と評価する声もあがった。
NECは第2四半期、この受注停止の影響があって、上期は昨年同期に比べて出荷台数は若干落ちたものの、第1四半期の頑張りがあってそれほどのダメージは受けていない。販社とのパイプがかえって強固になった面もあり、「雨降って地固まる」といったところだ。
PCやサーバーは多くの部品を使い、たくさんの部品メーカーとの連携で作られるハードウェア。水平分業型製造モデルの危険性を改めて印象づける出来事だった。(木村剛士)
IT業界の時々刻々
1.「Windows Server 2008」発売
4月15日、マイクロソフトはサーバー向け新OS「Windows Server 2008」を発売した。主要コンピュータメーカーも、同日付で同OS搭載サーバーを販売開始した。およそ5年ぶりの新OS発売にあたってのマイクロソフトの準備は周到で、発売日に同OS搭載機種を約100モデル、動作するアプリケーションは500種類ほど用意することに成功した。これらの数字は、前OS「Windows Server 2003」に比べて30%増しで、「OSとハード、アプリをすぐに導入できる状況で、SIerの“readiness(準備)”も万端」と樋口泰行社長も自信を示していた。
マイクロソフトの仮想化技術「Hyper-V テクノロジー」を標準搭載したのが最大の特徴で、仮想化をきっかけにした提案によるシステム構築案件増加に期待するコンピュータメーカーは多かった。なかでも、富士通は同技術のメリットにいち早く着眼し、検証施設を新OS発売時点で設けた。
販売を始めた時点では顕在化していなかった日本経済の後退、IT投資力減退でx86サーバー市場は落ち込み、新OSが需要喚起の起爆剤になっているとの声も聞いていない。ただ、新OSが実需に結び付くには、半年から1年かかるのが通例。来年、IT産業を盛り上げる材料になることを期待したい。(木村剛士)
2.リコー、米大手OAディーラー買収
リコーは8月27日、都内ホテルで開いた午後8時からの「緊急会見」で米OA事務機ディーラー大手のアイコンオフィスソリューションズ(IKON社)を1721億円で買収すると発表した。IKON社が販売する事務機器の6割はキヤノン製。リコー製はその半分の3割にすぎなかったが、北米での販社体制を確立するために過去最高額の巨費を投じる英断をした。 北米では2007年1月、プロダクションプリンタ(PP)を持つ米IBMのプリンタ子会社を買収。ところが販路として期待していた事務機ディーラーの米グローバルイメージングが競合の米ゼロックスに奪われた。暗雲が立ち込めるなか、IKON社側から働きかけがあったのをきっかけに獲得を決断。
リコーはここ数年、プリンタ単体売りでなく「ソリューション販売」を指向するディーラー体制の整備を進めている。近藤史朗社長は「ますます直売(直販)傾向が強まる」と、北米に限らず国内を含め、同社の代理店施策の転換点になる買収劇と指摘した。
今年は「県別販社体制」も見直し全国7社に再編。また、ボリューム販売をコミットする「トップ・OA・ディーラー(TOD)」約400社に対し、「ソリューション販売」できる事務機ディーラーやSIerなどの配備を進めている。(谷畑良胤)
3.新通信基盤「NGN」が本格始動
今年3月末、NTTグループが推進するNGN(次世代ネットワーク)が本格始動した。これにともない、ブロードバンドサービスとして「フレッツ光ネクスト」を提供。その後も、SaaSとの連携などNGNを生かしたサービスを発表している。回線が強固になったことから、従来にないサービス提供の可能性に注目が集まる。なかでも、コンシューマ向けコンテンツの充実に加え、法人向けアプリケーションのラインアップに期待がかかる。SaaS関連事業への着手は、法人市場でブロードバンド回線需要を掘り起こす狙いがある。実際、NECなどNGN関連の製品・サービスを体系化したベンダーもいる。
しかし、現段階ではアプリケーションサービスが揃っていないことからNGNによるブロードバンド需要が活性化しているとは言い切れない。また、コンシューマ向けサービスに関してもIP電話とインターネット、映像の“トリプルプレイ”を超えたサービスが出てきていないのが実状だ。
「クラウドコンピューティング」に代表されるように、今後はインターネット経由でアプリケーションを活用するケースが増えてくるだろう。その段階で重要になるのが強固な回線。通信事業者であるNTTとITベンダーとのアライアンスに期待がかかる。(佐相彰彦)
4.WiMAX事業会社が発足
KDDI陣営のWiMAX企画会社、ワイヤレスブロードバンド企画が今年3月1日付で「UQコミュニケーションズ」に社名変更、事業会社として再スタートを切った。今年はWiMAXサービスの本格化に向けた基盤作りがメインだった。「試験サービス」という形で東京23区や横浜市などで提供を開始するために基地局の設置を進行。同サービスが開始される2009年2月には基地局が1000局近くに達する見通しだ。09年夏には「商用サービス」として本格化を図り、名古屋市と大阪市にまでエリアを広げる。10年3月末までには政令指定都市まで拡大。この時点で、基地局の規模を4000局まで引き上げる。その後も基地局を増やし、13年3月末までには約1万9000局を計画する。この時点で人口カバー率90%を達成すると試算。設備投資額は13年度(14年3月期)までに約1500億円を予定している。
ノートパソコンなどモバイル端末の高速ブロードバンド環境をユーザーに提供できることがWiMAXの魅力。ベンダーにとってはUQコミュニケーションズの「MVNO(仮想移動体サービス事業者)」となってビジネスに着手することが可能となる。そのために、モバイル関連の製品・サービスを提供するうえでビジネスチャンスが拡大する可能性を秘めている。(佐相彰彦)
5.金融混乱、実体経済に大打撃
米サブプライムローン問題から端を発した金融混乱が、実体経済に深刻な影響を与えた。2008年前半は主に証券会社のIT投資が減速した程度だったが、9月の米証券大手のリーマン・ブラザーズ破綻で一気に影響が拡大。北米の消費の冷え込みや、円に対してドルが相対的に値下がりしたことも追い打ちをかけ、日本の輸出型製造業に激震が走った。世界に冠たるトヨタ自動車が、今期(09年3月期)当期純利益の見通しを昨年度実績より1兆1600億円余りも低い5500億円へと下方修正。“トヨタショック”となって産業界に大きな打撃を与えた。間髪を入れず、主に製造業の派遣社員や請け負いなど非正規労働者が万人単位で仕事を失うこととなった。IT業界では日本IBMが08年末までに1000人規模の人員削減を表明するなど雇用問題が表面化した。
実体経済の落ち込みは、情報サービス産業にも及ぶ。ユーザー企業は「すべての投資案件を見直している」(大手SIer幹部)と、これまで比較的順調に拡大してきたIT投資の一部も凍結の対象に含まれると懸念。IT投資は“半周遅れで影響が顕在化する”とされ、来年度上期あたりから受注減少が本格化するとの見方が根強い。09年度の見通しが立たないSIerが多くを占めるなど不透明感が増している。(安藤章司)
6.「iPhone 3G」発売、社会現象に
7月11日、ソフトバンクモバイルはアップル製携帯電話「iPhone 3G」を発売した。全国のソフトバンク直営店舗や家電量販店では長蛇の列ができる人気ぶり。同日朝7時に先行発売したソフトバンクショップ表参道では1500人以上が行列をつくり、ビックカメラ有楽町店本館では360人以上が並んだ。ビックカメラとヨドバシカメラでは発売イベントを開催。女優の上戸彩さんなどを招いて大々的にアピールした。企業向けのモバイル端末として使える点も注目を集めた。アップルは、端末発売と同時に「App Store」と呼ばれるアプリのオンライン提供窓口を開設。「iPhone」と「iPod touch」で動作可能なアプリを「iTunes Store」で提供・販売するサービスで、ソフト開発会社は、アップルから無償提供されるSDK(ソフト開発ツールキット)を使ってアプリを開発し、「App Store」で販売できるようになったのだ。
「App Store」で販売するソフトは、ゲームなどコンシューマ向けのアプリとは限定されていない。ビジネスアプリを使う企業や団体も対象だ。日本オラクルは発売同日にBIツールを提供開始し、ドリーム・アーツなどは対応ソフトを発表した。ビジネス用端末としてすでに数社のITベンダーが「iPhone」に注目している。(木村剛士)
7.グリーンITの取り組み本格化
省電力型データセンター(DC)の建設が相次ぐなど“グリーンIT”の取り組みが本格化した。ユーザー企業が温室効果ガスであるCO2換算での削減目標を設定する動きが活発化。同時に高集積のブレードサーバーやサーバー仮想化、SaaS、クラウドコンピューティングなどの新しい技術が登場。従来のDC設備では十分に対応できなくなっていることも、見直しの背景にある。省電力・低コスト型のDCにつくり直すSIerが増えた。具体的には、DCのエネルギー効率を示す“PUE”指標をもとに削減の動きが進展。PUEはDC全体の電力をIT機器の消費電力で割った数値で、1に近ければ近いほど効率がよい。現状の平均は2.5-2.8といわれており、ITの省電力化を推進する団体グリーン・グリッドでは目標値を1.6と位置づけている。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)や富士ソフト、NTTコムウェア、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)などDC事業に強い大手SIerがPUE指標を意識した投資を積極的に行った。
DCをベースとするSaaSやクラウドは初期投資の負担が少なく、月額定額で利用できるサービス型がメイン。従来の開発コストがかさむ手組みのソフトに比べて“不況に強い”とされ、逆風下にある2009年も伸びるビジネスだと期待が高まっている。(安藤章司)
8.「工事進行基準」事実上義務化
2008年、ソフト開発会社を混乱させた最も大きな要因が、「工事進行基準」という会計用語だろう。07年12月7日、企業会計基準委員会は、「企業会計基準第15号工事契約に関する会計基準」で、受注ソフト開発を同基準の適用範囲に入れることを決めたと発表。これが、そもそも混乱を招いた発端だ。これまで建設業や土木業に適用してきた会計処理の基準を、ソフト開発会社にも適用させるという。今年1年間、このニュースはソフト会社を翻弄し続けた。
受注(受託)ソフト開発を行う全企業は、プロジェクトの収益を期間で区切って分散計上する「工事進行基準」を実施することが事実上義務づけられた。基本的に案件の規模や手がける企業の年商は問わない。加えて、ソフト開発企業の大半は、「工事完成基準」という別の基準で会計処理している。それだけに、IT業界に与えるインパクトが大きかった。
適用開始は、来年4月1日から始まる会計年度から。今春から対応準備に入った企業が多いが、IT企業の会計監査に詳しい会計士によれば、「“日本版SOX法”や四半期決算の開示に躍起になって取り組んでいるタイミングだけに、大半のソフト開発企業は、『工事進行基準』に対応できないだろう」と語る。来年はひと波乱ありそうな気配だ。(木村剛士)
9.仮想化、低価格化でより身近に
2005年から徐々に盛り上がり始め、最近では仮想化環境のサポートを表明したソフトウェアベンダーも増えていることから、仮想化を「開発環境」から「本番環境」に採用する動きが活発化。ハードの有効活用や、サーバー統合、レガシーOS環境の延命などの用途で、仮想化は広く浸透している。今年はマイクロソフトが発売した「Windows Server 2008」の付属機能として「Hyper-V」がリリースされた。マイクロソフトでは、競合製品の仮想化ソリューションと比較した際のコストメリットを訴えた。
また、ヴイエムウェアが「VMware ESXi」を、マイクロソフトも単体で「Hyper-V Server 2008」をそれぞれ無償化するなど、敷居が下がり、仮想化がより身近になってきた。
こうしたなか、ヴイエムウェアが今年2月に仮想化環境向けのセキュリティ技術「VMSafe」をAPIとして提供し、セキュリティ製品の開発を支援するなど、安全面での向上も図られている。
また、ソフトウェアベンダーがOSとアプリケーションをセットにした新しい提供形態「バーチャルアプライアンス」も出てきた。
今後は仮想化環境の導入が増えるなか、複雑化した運用管理対策への需要などが伸びていきそうだ。(鍋島蓉子)
10.NECと富士通、PC受注停止
今夏、国産コンピュータメーカーの両雄、NECと富士通が思わぬアクシデントに見舞われた。両社ともに共通して活用していたデスクトップPCの筺体を製造するメーカーが操業停止に追い込まれ、その筺体部品を入手することが不可能になった。その結果、生産が困難になり、PCの受注停止を余儀なくされたのだ。
とくに企業向けPCで影響の度合いが大きかったのがNEC。だが、同社の対応は素早かった。筺体を製造する際に欠かせない金型を引き上げることができなかったにもかかわらず、受注停止からわずか3週間で再開にこぎつけたのだ。
同社の販売パートナーは、受注停止中に苦肉の策を打ち、手間を余儀なくされたものの、「予想以上に受注再開が早くて驚いた」と評価する声もあがった。
NECは第2四半期、この受注停止の影響があって、上期は昨年同期に比べて出荷台数は若干落ちたものの、第1四半期の頑張りがあってそれほどのダメージは受けていない。販社とのパイプがかえって強固になった面もあり、「雨降って地固まる」といったところだ。
PCやサーバーは多くの部品を使い、たくさんの部品メーカーとの連携で作られるハードウェア。水平分業型製造モデルの危険性を改めて印象づける出来事だった。(木村剛士)
2008年後半は、米国に端を発した「金融危機」に翻弄されることとなった。現在の危機的な状況を、年初に想定し得たITベンダーは少ないだろう。株価下落は多くの企業にダメージを与えることとなった。だがその一方で、株安を奇貨として企業買収が活発化した年でもあった。そうした景気変動にかかわりなく、時代は確実に進歩の足跡を刻んでいる。SaaSやNGN(次世代ネットワーク)など、将来にストックとなるものを模索する動きが顕著になってきた。グリーンITの推進など地球環境保護の動きも根強い盛況ぶりをみせている。
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