千葉県の佐倉市は、サーバーの仮想化で情報システムの運用コストを大幅に引き下げた。仮想化ソフトのVMwareを使い、約50台のサーバーを8台の物理サーバーに統合。仮想化したサーバーの負荷状態は、VMwareの管理コンソールで視覚的に見られるため、メモリやCPUなどのコンピュータリソースの最適な配分をユーザー自ら徹底して行える。このことが運用コストのより一層の削減につながった。同市では5年間で6000万円規模のコスト削減を見込んでいる。(安藤章司●取材/文)
5年間で最大6000万円減を見込む
ハードとの互換性に神経を使う

佐倉市ではサーバーの台数が増え、管理コストの肥大化に悩んでいた。情報化を推し進めたまではよかったが、気がついたときには職員約1000人の業務を支えるサーバーが約50台に増加。コストを下げるにはサーバーを管理しやすいよう統合するしかない。そこで選択した手段がサーバーの仮想化だ。
サーバー仮想化が今ほど一般化していない2006年。庁内ネットワークの運用を委託していた大崎コンピュータエンヂニアリングの担当システムエンジニア(SE)に、佐倉市の前原一義・情報システム課主査が「サーバーの管理コストを削減したい」と相談したところ、仮想化ソフトのVMwareを勧められた。当時はまだ実績が少なく、「不安が拭いきれない」(前原主査)状況だった。とくに、ハードウェアとの互換性には神経を使った。検証段階で購入したNEC製サーバーや、移行時に追加購入した富士通製。さらに追加で購入したサーバーなど、チップセットの違いがあって微妙に相性が異なる可能性が指摘された。また、サーバーを集約するため、万が一システムが停止すれば全庁に甚大な影響が出る。ストレージとサーバーの組み合わせやバックアップは、より厳重に行う必要があった。
仮想化のコスト削減力に驚く
一般競争入札の結果、VMwareの専門的な知識を持つネットワールドと、仮想化に積極的に取り組んできた大崎コンピュータにシステム構築を依頼。ネットワールドはVMwareの認定コンサルタントの資格を持つ専門ベンダーで、大崎コンピュータと協力してハードとの整合性やバックアップの仕組みを難なく構築してみせた。

設計構築に当たったネットワールドの大城由希子・バーチャル・インフラグループマネージャーは、「数十台規模の仮想環境を構築するには、仮想化の特性に合った技術が求められる」と説明する。仮想化に必要なキャパシティ設計など、従来の個別に運用するサーバーとは異なる要素技術が欠かせない。ストレージとの接続も、高性能なファイバーチャネルスイッチを2系統用意し、片方が故障しても、もう片方で機能を保てるよう設計。テープ式のバックアップ装置も取り付けた。
できあがったシステムでは約50台の庁内サーバーを仮想化。8台の物理サーバー上で稼働させることに成功した。いったん稼働し始めたら、「期待以上のコスト削減効果をもたらしてくれた」(前原主査)。まず驚いたのは、50台の仮想サーバーの負荷状況が一覧できる点だ。負荷が少ないサーバーにはメモリ容量やCPUの処理能力の割当量を減らし、負荷が大きいサーバーは割当量を増やす。サーバーの負荷の具合をVMwareの管理コンソールで視覚的に把握できるため、「リソースの最適な配分をユーザー自身で調整できる」(佐倉市の松本賢一郎・情報システム課主任主事)ようになった。
ユーザー自ら徹底チューニング
情報システムの運用コスト削減という当初の目標を確実に達成するため、こまめにリソース配分のチューニングを行った結果、実際には5台のサーバーで約50台の仮想サーバーを動かせることが分かった。物理的には8台のサーバーを購入しており、「大まかに言えば、8台のうち3台が同時に壊れてもシステムを止めずに済む」(松本主事)計算になる。本来は最大9台まで物理サーバーを増やす計画もあったが、「8台で十分」だった。コスト的には、07年の本格導入から11年までの5年間で、当初は累計4000万円の削減を見込んでいたが、「このままいけば累計6000万円程度のコスト削減は可能」(前原主査)と鼻息が荒い。システム開発時に必要な、動作検証サーバーや移行時の予備機が仮想サーバーで済ませられることもコスト削減につながった。
仮想化した主な業務システムは、財務会計や人事勤怠、土木系など庁内の主要システム。これに加えて市内保育所で使う保育料の計算システムなど一部福祉施設のサーバーも仮想化した。保育所の職員はネットワークを経由し、庁内の仮想サーバー上で稼働する業務システムを遠隔で利用する。なお、住民基本台帳や税務管理などの基幹系システムは、すでに他市と共同でアウトソーシングしており、仮想化する必要はなかった。
前原主査は、仮想サーバーの利用形態を見て思うことがある。職員はネットワーク越しに業務アプリケーションを利用している。今は庁内にサーバーを設置しているが、将来的に「VMwareの環境を持つデータセンター(DC)に仮想サーバーを移す選択肢もある」と考える。仮想サーバーはソフト的なサーバーなので、端的にはDCへコピーするだけ。物理的なサーバーの統廃合の手間はもうかからない。折しもクラウド・SaaS型のサービスが台頭しており、コスト次第で検討する余地は十分にある。ネットワールドの森田晶一専務は、「仮想化は普及期を過ぎ、より高度な活用・応用フェーズに突入する」とみている。多彩な仮想化需要が生まれる可能性が高まっている。
事例のポイント
・約50台のサーバーを仮想化し、わずか8台のサーバーに統合
・リソースの最適配分をユーザー自身で徹底的にチューニング
・検証用サーバーや移行時の予備機なども仮想サーバーで代用