“オラクル対抗”鮮明に
マイクロソフト(樋口泰行社長)は、データベース(DB)ソフト「Microsoft SQL Server 2008」の拡販で新営業戦略を打ち出した。競合の日本オラクル製品と比較しての性能・価格面のメリットを前面に打ち出し始めたのだ。日本オラクルのパートナーへのコンタクトを増やしたり、オラクル製品との比較セミナーを始めたりなど、昨年末から矢継ぎ早に策を講じている。景気後退による市場沈滞はDBにも及んでいる。そんな状況下、マイクロソフトがライバルとの比較というストレートな戦略でシェアを引き上げようとしている。■不況下でのメッセージ コスト削減効果を訴求
「Microsoft SQL Server 2008」は、マイクロソフトが昨年8月に発売したDBで、約3年ぶりのバージョンアップした新タイトルだ。マイクロソフトにとってDBは、サーバー向けソフトの“三種の神器”と呼ばれる主力製品の一つ。OSの「Windows Server」や開発ツール「Visual Studio」と同レベルの重要な製品に位置づけられている。昨年、マイクロソフトは3製品をすべてバージョンアップし、昨年から今年にかけてプロモーションに力を注いできた。それゆえに、昨年後半から今年にかけては、新バージョン発売による販売本数増加という新版効果が現れる時期だったはずだ。
しかし、100年に1度と言われる大不況の来襲。販売本数を伸ばすことが難しい状況になったなかで、打ち出したのがコスト削減だ。マイクロソフトは景気後退が深刻化した頃からITでコスト削減、生産性向上を謳ったキャッチフレーズ「Microsoft Save Money」キャンペーンを展開しているが、「Microsoft SQL Server 2008」では具体的なコスト削減効果を占める独自の策を講じた。それが「日本オラクル対抗」だ。日本オラクル製DB「Oracle Database」に比べて低コストであることを、ユーザー企業に対して積極的に訴求し始めているのだ。その具体的な中味とは――。
■セミナーなどあの手この手 あえてオラクル通を選定

まず象徴的なのが3月から始めたセミナーだ。「Oracle Database」関連書籍で著名なシステム・テクノロジー・アイの林優子氏や、同製品のパフォーマンスチューニング業務で名高いインサイトテクノロジーの担当者を招いた内容をメインに据えた。林氏は、「Oracle Database」で使われる用語で「SQL Server」のアーキテクチャや両製品の違いを解説。また、インサイトテクノロジーの担当者は、「『SQL Server』は基幹業務に耐えうるか」と題し、自ら手がけた「SQL Server」の評価結果をもとにした新機能の有用性を紹介する。オラクル製品に精通した人物をあえてスピーカーに選び、「Microsoft SQL Server」の優位性を語らせることで、説得力をもたせようとしているのだ。
参加費用3万1500円の有料セミナーで、けっこう高額だが、3月上旬に開催した第1回では、「定員30人を上回る40人が参加し、活況だった」(猪瀬森主・サーバープラットフォームビジネス本部シニアマーケティングスペシャリスト)という。4月上旬には、同様の内容で第2回を開催する予定だ。
セミナーだけではなく、Webサイトでの情報提供でも日本オラクル対抗を鮮明に打ち出している。「Microsoft SQL Server 2008」のWebサイトでは、「目的別に分かるデータベース導入・総所有コストの差」と題した専用ページを開設。ここでも「Oracle Databaseユーザー必見」とし、「Oracle Database」との比較で低コストである点を示す三つのシナリオを用意して説明している。
具体的には、同様の機能を実現するために「Microsoft SQL Server 2008」は「Oracle Database」に比べてオプションライセンスが不要である点。二つ目がプロセッサのコア数による購入ライセンス単位の違い。「Microsoft SQL Server 2008」が、コア数に限らず1プロセッサで1ライセンスを購入する仕組みである優位性を示した。三つ目として、フェールオーバーをサポートするための待機系システムのライセンスが、「Oracle Database」は必要だが、「Microsoft SQL Server 2008」では不要であることを主張している。
■オラクル販社にも接近 専用のセールスキットを配布

マイクロソフトのこうした「オラクル対抗戦略」は、ユーザー企業向けのPRだけではない。DBをシステム構築に活用するSIerや販社向け施策においても積極的な動きをみせている。マイクロソフトは昨年末から、「Oracle Database」の販売実績が多い有力SIer数社に水面下でアプローチしているのだ。それらのオラクルパートナーに対し、あるデータを格納した160GBのコンパクト型外付けHDDを無償配布している。そのHDD内には「Microsoft SQL Server 2008」の営業提案資料や技術文書、「Oracle Database」との機能・コスト比較データほか、デモ環境を容易に構築するためのプログラムまでも格納している。
このHDDについては、景気が後退する前に企画・予算化し、「不況が鮮明になった時期にはきっと予算が取れなかっただろう」(同社マーケティング部担当者)というほどのコストをかけている。マイクロソフトはこのHDDを提案で活用してもらうだけでなく、それらのパートナーに資料の評価を得て分析。今後のオラクル対抗に生かそうとしている。
マイクロソフトは、かつてもDB分野でオラクルとの比較を打ち出したことはあった。ただ、ここまで鮮明にオラクル対抗を打ち出すのは初めてだろう。コスト削減効果を具体的に示す形として“オラクル対抗”を選び、他社製品からの乗り換えやバージョンアップを促進しようとしている。