マイクロソフト(樋口泰行社長)が企業市民(社会貢献)活動の一環として進める「ITベンチャー支援制度」。主要商圏に限らず、全国に点在するソフト開発企業を開発・販売の両面で無償サポートするプログラムだ。いくつかのメニューがあるなか、その一つとして展開するのが米本社での研修プログラムである。「最新ソリューションや未発表の技術などを本社担当者から説明し、ITベンチャーそれぞれの今後につなげてほしい」という趣旨で、これまで5年にわたって続いてきた。6年目の今回、本紙編集部記者は現地取材の機会を得たので、その様子をレポートする。(木村剛士●取材/文)
CSRでITベンチャーを米本社に招待
今年は4県から7社を選定
自治体や教育機関、学生にITベンチャー……。マイクロソフトは「企業市民活動」と称するCSR(社会的責任)として、さまざまな企業・団体を無償でサポートする。企業には、開発ツールやアプリケーションのライセンスを無償提供、自治体や教育機関にはIT技術のトレーニングや地域活性化施策を共同企画するなど、さまざまな支援プログラムを用意。景気後退によるコスト削減意欲の高まりで、社会貢献活動を縮小する企業もみられるが、樋口泰行社長は「予算は削らない」と断言しており、マイクソフトはCSRを今後も継続的活動とすると約束する。

「ITベンチャー支援プログラム」は、この「企業市民活動」の一環として展開している制度だ。マイクロソフトと各自治体が協力して、今後の活躍が期待できそうな若いIT企業を地元から選び出し、1年間限定でバックアップする。今年は4県から7社を選定(下表参照)。開発と販売の両面でベンチャーを助けるメニューを揃えている。この制度の一つに、米本社での研修がある。ワシントン州レドモンド市内にある本社に招待し、最新のソリューションや未発表技術を本社担当者から説明する。ITベンチャーの今後のビジネス展開に役立ててもらうためだ。今年はITベンチャー支援プログラムの選定企業と、自治体向け支援制度「インキュベーションプログラム」でサポートする自治体の担当者など、計15人が参加した。
未発表や近未来オフィスを紹介
今回マイクロソフトが参加者のために用意した研修内容は、今後の製品ロードマップをはじめ、「Software+Service」、ユニファイドコミュニケーション、調査・研究部門「マイクロソフトリサーチ」の活動をメインとするものだった。このほか、日本法人から米本社に移籍した日本人社員が協業体制のあり方を説いた。
特筆すべきは、自社運用型システムとサービスを組み合わせたIT利用を提唱する「Software+Service」のセッションである。ここでは日本でも正式にサービスが始まった「Business Productivity On Service(BPOS)」でカンタス航空の導入事例を紹介。イリノイ州シカゴ市内に新たなデータセンターを建設中で、日本でもデータセンターの設置についてパートナーと議論していることを明らかにした。一方、マイクロソフトリサーチの活動では、年間R&D費用として約90億ドル(約9000億円)を投資。そのなかで企業向けが85~90%、残りをコンシューマ向け製品の研究開発に投じていることを示した。マイクロソフトリサーチは1991年に設置された研究開発部門で、米国、英国、インド、中国に研究所を設置。現在850人の博士号を持った研究者が在籍する。マルチタッチのテーブル型コンピュータ「Surface」もマイクロソフトリサーチが生み出した製品だという。

このほか、「Surface」のデモンストレーションや、まだ商用化していないソフトとデバイスを使った近未来のモデルルームを公開。オフィスと家庭のそれぞれでマイクロソフトの最新技術を披露した。例えば、未来のオフィスでは、完成したばかりのデモルームにおいて「Surface」で動作するアプリを壁にも映し出して、複数人が壁の画面を指でアプリを操作して打ち合わせするシーンを再現してみせた。
参加者は最新技術に手ごたえ

今回の参加者は、すべて主要商圏ではなく地方のITベンチャー担当者。マイクロソフトは全国を網羅する支店を構えているが、マイクロソフトの社員と頻繁に対面コミュニケーションが取れる機会は少ない。マイクロソフトの認定パートナーになっている企業もいるが、「膨大な情報を有効に活用できていなかった面もあった」(参加ITベンチャー)と反省する声も。
今回、高知県から参加したシティネットの片岡幸人取締役は、「半歩先のソリューション、技術に触れる機会を得られたことは大きな収穫。今後のビジネスに生かしたい」と研修の成果を評価している。一方、自治体支援の他のプログラムでサポートを受けている鳥取県の安田敦・商工労働部産業振興総室新事業開拓チーム副主幹は、「鳥取県は、マイクロソフト一辺倒というわけでなく、OSSでもマイクロソフトでも中立的にさまざまなノウハウを持ち、地元ITベンダーを支援できる体制を持つことが大切。今回の研修は最先端技術に触れる絶好の機会になった」と語っている。
各ITベンチャーと自治体にとって、ソフト世界最大手の本社研修は大きなヒントを得るきっかけになったようだ。マイクロソフトからの支援期間は1年間。過去の研修参加企業・団体からは、ユニークなソリューションや自治体の支援事業が生まれただけに、09年の支援企業・団体がどんな斬新なソリューションを生み出すかは注目に値するはずだ。