製と販の協業、活発化
クラウド商材の販売体制の整備が急ピッチで進んでいる。日本IBMは、この7月から本格的にクラウド商材の販売網の再構築に着手。富士通やNECもクラウド商材を拡充しており、販売パートナーとの協業を視野に入れる。マイクロソフトもクラウド商材の準備に余念がない。これまでのクラウドはGoogleやAmazonのようなサービスが主体だったが、ここへきてハードやソフトメーカーが独自のクラウド商材を相次いで投入。SIerや販社は、こうした商材を活用することで、新しいビジネスモデルを構築できる可能性が高まってきた。
ベンダーと売り手のクラウド協業モデルは、大きく分けて(1)ベンダーが所有するクラウド設備で生み出したサービスをパートナーが再販するAパターン、(2)パートナーがベンダーのソフト・ハードを活用して独自にクラウド設備を構築。顧客にサービスを提供するBパターン、(3)顧客が所有する電算室やデータセンター(DC)に顧客の所有物としてのクラウドを納入するCパターンがある(図参照)。
富士通やNEC、日本IBM、マイクロソフトなど大手ベンダーは、すでに自社DCでのAパターンによるクラウド構築を推進。富士通は今年10月から本格サービスに入り、マイクロソフトは年内に北米で商用利用を開始する予定だ。Bパターンでは、新日鉄ソリューションズや日立情報システムズ、シーイーシーなど有力SIerが大型の投資を継続する。ベンダーからSIerへとクラウド構築のノウハウが伝播した次のステージとして期待されるのが、ユーザーにプライベートなクラウドを構築する「CパターンによるSI案件が増えること」(日本IBMの岩井淳文・執行役員パートナー事業担当)だとしている。

一方、SIerなどビジネスパートナーにとって課題になるのが、「どのベンダーと組むのか」(SIer幹部)という点。京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、自社のビジネスにとって、「どういったプラットフォームやミドルウェアが適しているのか早急に決定する」(同社の松木憲一取締役)と、ベンダーの商材開発の動向を注意深く分析する。富士ソフトは、AパターンとしてGoogleのサービスを担ぐが、今後の拡大が期待されるB、Cパターンでは、「どのようなプラットフォームが有望なのか、検討を重ねている最中」(同社の栁英雄・執行役員アウトソーシング事業本部長)という状況だ。
こうしたSIerの需要を虎視眈々と狙うのがハード・ソフトベンダーだ。マイクロソフトは、クラウドプラットフォーム「Windows Azure」の仕組みを「パートナーに販売することも検討」(同社の前田浩・執行役エンタープライズパートナー営業統括本部長)しており、自社クラウドシステムの外販に意欲を示す。GoogleやAmazonが自社の仕組みを外販するとは考えにくいが、ソフトベンダーであるマイクロソフトにとっては、外販するに当たってのハードルは低いとみられる。日本IBMもマルチベンダー化するパートナーの現状を見越したうえで、「パートナー内部のIBMシェアを高める」(岩井執行役員)とクラウド関連商材をテコにした“店内シェアアップ”に力を入れる。
ハードやパッケージソフト単体では、すでに付加価値の向上は難しい。折からのオープン化、マルチベンダー化で個別のベンダーの求心力も弱まる。こうした状況下にあっても、クラウド商材は、単品売りから複合商材・サービス化へシフトさせ、再びベンダーの求心力を高める好材料だ。ベンダーと販売パートナーの関係を再び強める絶好のチャンスになる。(安藤章司)
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クラウドの台頭と無縁ではない
大手コンピュータメーカーによる直系販社の再編が加速している。中堅・中小企業向けの直系販社の体制を刷新するものだが、クラウドビジネスの台頭と無縁の動きではない。
クラウド上でさまざまな業務アプリケーションが動くようになれば、ユーザー企業の社内でサーバーを運用する必要はなくなる。ただでさえ情報システム管理の専任者を確保しにくい中堅・中小企業。このクラスの企業で“もう社内にサーバーを設置する時代じゃない”との認識が広がれば、メーカーのビジネスは大きな痛手をこうむる。こうした事態を回避するため、直系販社の引き締めによる販売体制の強化を推し進めるものとみられる。
NECは、今年10月1日をめどに東名阪の主要地域の中堅市場向け営業機能を、直系販社であるNECネクサソリューションズに統合。中堅企業向けビジネスの売上高を、「今後4~5年で4500億円規模を目指す」(NECの岩波利光・執行役員常務)と高い目標を立てる。現状は、NECネクサで1000億円規模、NECが販社を含めて1500億円規模。これを、NECネクサで、「現状の2倍(2000億円規模)に引き上げる」(NECネクサの森川年一社長)ことを見込み、残りの1000億円規模をNEC本体で増やすという試算だ。
富士通も、今年8月をめどに富士通ビジネスシステム(FJB)を完全子会社化。ガバナンスを強化する。NECでは今後の販売パートナーとの関係について、「営業が重複せず、隙間なくユーザー企業を獲得できるように取り組んでいきたい」(NECの岩波常務)との考えを示すにとどまる。クラウド化の進行で、かつてのハードメーカーを頂点とする販社網の崩壊がより進む可能性がある。これを見越しての再編とみられるが、一方で一般販売パートナーとのより具体的な関係強化のための施策は、まだみえてこない。(佐相彰彦、安藤章司)