中堅・中小企業(SMB)は、業務アプリケーションをどのように利用しているのか。「パッケージ」か「独自開発(オーダーメイド)システム」か、それとも「ASP・SaaS型サービス」なのか——。SMBのIT利用実態に詳しいノークリサーチ(ノーク、伊嶋謙二社長)の調査でそれらが明らかになった。ASP・SaaSやクラウドを推すITベンダーの動きとは違う、意外な姿が浮き彫りになった。
「ASP・SaaS型サービスは浸透していない」
ノークリサーチは、2009年6月から9月まで、年商5億から500億円の全国中堅・中小企業(SMB)を対象に、業務アプリケーションの利用実態を調査した。有効回答数は1480で、調査したアプリは下表のとおり。
調査した項目の一つとして、各業務アプリの「利用形態」がある。ユーザー企業に対し、(1)パッケージソフト(2)独自開発(オーダーメイド)システム(3)ASP・SaaS型サービスの3種類のなかから、どの形態でアプリを利用しているかを聞いている。下表では、各業務アプリごとに三つの形態の利用比率を示した。
3形態のなかで、「生産管理」と「販売・購買管理」を除いて、パッケージソフトでの利用比率がもっとも高い。「PCセキュリティ」と「運用・資産管理」は、90%以上がパッケージを利用しているほどだ。ノークは、アプリによって差はあるものの、共通して独自開発システムからパッケージソフトに移行する傾向にあると分析している。
生産管理と販売・購買管理は、各企業が独自の業務フローを設定しているケースが多い。そのため汎用ソフトでは対応できず、オーダーメイドでシステムを開発・運用している企業が大企業でも多い。SMBでも同じ傾向であることが、今回の調査で明らかになった。
注目すべきは、ASP・SaaS型サービスの利用者が驚くほど少ないことだ。業務アプリごとに若干違いはあるものの、大半のアプリで1%を割っている。ASP・SaaS型比率がもっとも高い「ワークフロー」でも3.4%しかない。
SaaS型サービスやクラウドを推進するITベンダーは多く、これまでパッケージで販売してきたソフトをASP化するISVや、ISVのSaaS化支援サービスを始める大手システムインテグレータ(SIer)も増加傾向にある。また、ISVでは、「大企業には『パッケージ+カスタマイズ開発』で提案し、SMB、とくに中小企業にはSaaS型サービスで攻める」という戦略を立てるケ−スが多い。しかし実態は、ASP・SaaS型サービスはSMBには浸透していない。
ASP・SaaS型サービスに対するITベンダーの動きとSMBの実態のかい離——。今回の調査はそれを浮き彫りした。
ノーク・伊嶋謙二社長が語るSMBの今
「ASP・SaaS型サービスが伸びる可能性はある」
今回の調査結果から、ASP・SaaS型サービスで業務アプリを利用しているSMBが、アプリケーションの種類を問わず少ないことがわかった。ITベンダーは、SaaSやクラウドが理想のアプリ提供形態のように謳い、盛り上げを図っているが、SMBではほとんど受け入れられていない——それが現実だ。私は、予想通りの結果だと思っている。
しかし、「ASP・SaaS型サービスが今後もSMBに受け入れられない」と言っているわけではない。SMBのユーザーは、実はパッケージと独自開発システム、ASP・SaaS型サービスといった利用形態にあまりこだわっていない。「パッケージや独自開発システムでなければダメだ」と思っているわけではないのだ。
では、これだけASP・SaaS型サービスが増加傾向にあるのに、なぜ利用比率が総じて低かったのか。それは、SIerなどのITベンダーが、SMBに対して提案していないからだ。ITベンダーでは、サービスを売る体制やビジネスモデルが確立していないのだろう。だから、ASP・SaaS型サービスを本腰を入れて売ってはいない——。
繰り返すが、SMBのユーザーは、ASP・SaaS型サービスを否定しているわけではない。ASP・SaaS型サービスには、初期投資の少なさなど、パッケージや独自開発システムにはない魅力がある。ITベンダーが真剣に販売すれば、着実に伸びていくと思っている。(談)

ノークリサーチ 伊嶋謙二社長