オムロン子会社で制御機器専門商社のエフ・エー・テクノ(FAテクノ、石田良信社長)は、基幹業務システムの一部をオンデマンド型サービスに切り替えた。サービスを提供するのはSIerの日本オフィス・システム(NOS、水谷正裕社長)。FAテクノが長年使っていたパッケージソフト型の財務会計と人事システムを、NOSが独自に開発したオンデマンド型ERPサービス「FineCrew NX(ファインクルーエヌエックス)」シリーズへと移行した。ここ数年、急速に広まるクラウド/SaaS方式と同様、バージョンアップの負担を解消。月額の定額料金で常に最新バージョンのソフトを利用できるようにした。
サポート期限を機に乗り換え FAテクノは会計システムをバージョンアップすべきかどうかに悩んでいた。これまで使っていた会計システムは、大手SIerが開発したパッケージソフトを購入するタイプで、すでに型落ちのバージョン。サポート期限の2009年3月までに、数千万円かかるバージョンアップを迫られていた。そこで検討したのが、基幹業務システムを“サービス”として利用する方式だ。パッケージソフトを買い続けている限り、半強制的な有償バージョンアップは避けられない。サービス方式なら「バージョンアップの煩わしさから解放される」(FAテクノの長縄一智・経営企画部長)と考えた。
日本IBM製品のハードウェア関連で取引のあったNOSに相談したところ、同社が開発したオンデマンドERPサービス「FineCrew NX」を勧められた。FineCrew NXは、ソフトライセンスを購入する必要がなく、月額定額の料金でサービスとして利用するタイプ。バージョンアップの概念がないサービス型だ。FAテクノは、FineCrew NXと同じく売れ筋ERPのオービック製などとの比較検討の結果、最終的にFineCrew NXを選定。会計システム刷新のタイミングで、人事システムの導入も決めた。
ソースを複数ユーザーで共有 既存システムのサポート期限は09年3月だが、「期限ぎりきりで切り替えるのはリスクが大きい」(FAテクノの鈴木康之・経営企画部経理課長)との判断から、FineCrew NXの利用開始は2009年初めに設定。人事システムは同年5月の本稼働を決めた。それぞれ個別開発や導入に絡むシステム構築に要した時間は約3か月ほど。決して十分な時間ではなかったが、FineCrew NXがすでに多数のユーザー企業が利用しているサービスであることや、FAテクノ側の「会計、人事担当者の積極的な協力を得られた」(日本オフィス・システムの岩井直樹・FineCrew NX推進室長)ことなどがプラスに働き、期限通りの稼働にこぎ着けた。
FineCrew NXは、一つのソースを複数のユーザー企業でシェアして使うため、個別に開発するよりも費用を安く抑えられる。NOSでは本稼働後も顧客の要望を極力システムに反映する方針を示しており、「できる限り、月額料金の範囲内で改善を行う」(NOSのFineCrew NX推進室・藤田誠氏)意向だ。多額の費用がかかる場合は、個別に見積もる必要があるものの、開発した成果物は他のユーザー企業とのシェアを前提としているので、特定の1社だけのために開発するよりは割安で済む。
NOSは09年度(09年12月期)、厳しい受注環境のなかでもFineCrew NXのユーザーを新規に12社獲得。累計で60社余りに増やした。「オンデマンド型ERPの料金体系や開発方針が支持されている」(NOSの新規事業推進事業部・月岡浩一氏)と、手応えを感じている。
月額料金の範囲内で随時改善 システム構成は、外部のデータセンター(DC)にFineCrew NXのシステムを設置。ソフト資産はNOSが提供し、ハードウェアはFAテクノが自社で購入した。サーバーは仮想化ソフトのVMwareを使って仮想化。これまで2ラックを借りていたが、1ラックに集約することでコストを削減した。
FineCrew NXの導入後は、販売管理など外部システムの会計へのデータ入力を自動化。従来の手作業による入力をなくして、「業務効率を大幅にアップ」(FAテクノの鈴木経理課長)させた。ただし、部門長や経営者への「レポート機能は改善の余地がある」(同)と指摘。財務諸表の作成のみならず、経営戦略に必要な情報を即座にレポートするBI(ビジネスインテリジェンス)的な機能の強化を望む。

写真左からエフ・エー・テクノの経営企画部人総企画課・乾貴雄氏、経営企画部・長縄一智部長、経営企画部経理課・鈴木康之課長

日本オフィス・システムの新規事業推進事業部・月岡浩一氏(左)とFineCrew NX推進室・藤田誠氏
人事システムでは、「社員が自分の勤怠や研修履歴、育休・産休の取得状況などを閲覧できるよう改善した」(FAテクノの経営企画部人総企画課・乾貴雄氏)。これまでは主に表計算ソフトで管理していたため、自身の情報だけ抽出して見られなかった。今後は、勤務成績や評価なども開示し、社員一人ひとりのモチベーションを向上につなげる。個々人の意識を高めることで会社全体の競争力の増強を狙う。
NOSは、こうしたユーザーの要望を順次FineCrew NXに反映していくことで、ライバル他社の製品と差異化を推進。オンデマンド型ERPサービスの受注拡大を目指す方針だ。
事例のポイント
・半強制的な有償バージョンアップは、無理して受け入れない
・サービス型は、バージョンアップの“概念”そのものがない
・ユーザーの積極参加がサービス型システムを改善させるカギ