鋼管加工メーカーの大和鋼管工業(中村慎市郎社長)は、日本オラクルのERP(統合基幹業務システム)「JD Edwards(JDエドワーズ)」で、経済危機の荒波を乗り越えた。リーマン・ショック以降、製造業や建設業は深刻な打撃を受けた。しかし、大和鋼管工業は、激震が襲う直前にJD Edwardsで業務システムを刷新。リアルタイム処理による徹底した在庫管理で財務へのインパクトを大幅に軽減した。景気に少しずつ明るさが見え始めている今、最新ERPを駆使したビジネス拡大に強い意欲を示す。(安藤章司●取材/文)
経済危機の荒波乗り越える
市場激変への即応体制つくる 大和鋼管工業は、2008年夏にERP「JD Edwards」をベースに情報システムを刷新。だがその直後、世界は同時不況で急転直下の様相をみせ始めた。大和鋼管工業は、ビル建設の足場などに使う鋼管を加工するメーカーで、景気減退の最悪期には、「需要が5割減った」(中村社長)と、振り返る。市場が大きく揺れ動くなかで、同社はJD Edwardsを駆使した需要予測や在庫水準の適正化を通じて、苦境を見事に乗り切ったのだ。

大和鋼管工業の事業所内の様子。熟練の技術者が鋼管の切断、加工などを手がける
鉄鋼メーカーから圧延コイルなどの原材料を仕入れて鋼管に加工する同社にとって、在庫水準の適正化は財務上、極めて重要である。本社のある東京・千代田区、栃木県の関東工場、関西物流・加工センター、九州物流・加工センターなど主要拠点の在庫をリアルタイムにJD Edwardsに反映させ、かつ全国の営業拠点からもこうした現場の在庫などのデータを参照できるようにしたことで、市場の変化に即応できる体制を築いた。
しかし、今回のERP刷新には、導入当初からいくつもの課題があった。まず、中堅製造業に人気の高いJD Edwardsだが、国内製造業向けの納入実績の多くを自動車関連などの“組み立て系”が占める。大和鋼管のような“プロセス系”の製造業の事例がほとんどなかったことから、製造・物流の現場とERPシステムを結ぶミドルウェア「製造現場管理システム(MES)」の構築に多大な労力を費やすこととなった。
同社のシステム構築を担当したのは、Oracle製品をベースとしたシステム開発に強いアクセンチュアグループのソピアである。大和鋼管は1990年代終盤にもJD Edwardsの導入を検討したことがあったが、原材料を加工するタイプのプロセス系製造業に納入実績が少ないことや、価格面で折り合いがつかなかったことなどから、導入を断念。ところが07年、Oracle製品に強いソピアが製造現場管理システム(MES)による現場とERPのつなぎ込みを提案するとともに、開発元の日本オラクルも中堅プロセス系製造業での実績づくりも含めて「積極的に支援する」(日本オラクルの野田由佳・JDE本部ビジネス推進担当ディレクター)姿勢であったことから導入を決めた。
現場とERPつなぐMESが決め手 ERP刷新の狙いは、グローバル進出にあった。隣国・中国の鋼管の需要は日本のざっと5倍。しかも、その市場は日々拡大している。グローバルでサポートしてくれるERPを採用することによって、「将来、海外に進出しやすい」(大和鋼管工業の中村社長)という体制づくりを目指した。ソピアでは、こうした大和鋼管の要望に沿って、製造・物流現場で鋼管が運ばれるライン上に、通過個数をカウントするセンサーを設置したり、鋼管に添付したバーコードを入出庫時にPDA(携帯情報端末)で読み取る仕組みを設置バーコードなどを採り入れ、鋼管の流れをリアルタイムにJD Edwardsに反映するMESを10か月ほどかけて構築した。「製造・物流の現場の“今”の状況が、本社はもとより全国の営業拠点からでも参照できる」(ソピアの宮藤就二・製造・流通ソリューション本部シニア・マネジャー)というものだ。

大和鋼管工業の中村慎市郎社長(右)と、情報管理担当の兼子智マネジャー

ソピアの宮藤就二シニア・マネジャー(左)と日本オラクルの野田由佳担当ディレクター
努力の甲斐あって、このシステムは、世界同時不況の下で“想定以上”の威力を発揮することとなった。在庫水準をピーク時の半分に落とす状況下でも納期を守るには、「現場の荷動きを常に掴み、誤出荷をゼロにする」(大和鋼管工業で情報管理を担当する兼子智マネジャー)ことが求められる。ソピアの宮藤シニア・マネージャーは、「MESが最新鋭の“自動倉庫の管理システム”のように正確に入出荷を制御したことが、徹底的な効率化につながった」と話す。
今は、需要水準もピーク時の7割ほどに回復しつつあり、グローバルビジネス拡大への道筋もみえてきた。逆に原材料が再び高値に戻る前に在庫量を増やし、需要がより強まってきたときに多く受注すれば粗利益も確保しやすい。こうした「繊細なコントロールができるようになったことも、業績回復を後押しする」(大和鋼管工業の中村社長)と、手応えを感じている。大和鋼管工業は、ソピアや日本オラクルとともに独自開発したシステム部分の販売やSIをソピアに委託し、これに、アクセンチュアや日本オラクルなどが協力する形で“成功モデル”の外販にも取り組む考えだ。
事例のポイント
・ERPだけでは不十分。現場とつなぐミドルウェア開発がカギ
・入出荷や在庫量などの現場情報をリアルタイムにERPに反映
・業種業務に強いSIerと開発元ソフトベンダーとの密接連携が奏功