情報システム学会(ISSJ、竹並輝之会長)は、研究テーマの商用化に積極的だ。大学教授を中心とする研究に重きを置く関連学会は、ビジネスとは一線を画した研究を行い、それを会員のなかで商用化につなげるITベンダーがいれば市場に投入するといった流れが一般的。だが、ISSJはビジネスをベースにしている。年内をめどに、任意団体から社団法人化を視野に入れている。
 |
| 竹並輝之会長は、「ISSJで研究発表するITベンダーを増やしたい」との考えを示す |
ISSJは、2005年に設立された。今年で5年が経過している。情報システムの概念的な枠組みや学問として方法論を体系化することに加え、情報システムによる社会的影響を多くの角度から考察することを理念としている。大学教授などの研究者をはじめ、ITベンダー、経営者、利用者、一般消費者などを会員として集めてきた。竹並会長は、「情報システムは、理論だけでは成り立たない実務に密着したもの。企画から開発、運用、利用につながらなければ意味がない」と訴えている。加えて、「仕事の効率化を追求した情報システムも重要だが、情報システムを一つのツールとして考えた人間中心の情報システムを実現することが重要」と、同学会の存在意義を説いている。
設立から5年という一つの節目を迎えたことで、竹並会長は「今後は、ITベンダーを中心に会員を増やしていきたい」という考えを示している。サービス型モデルに代表されるクラウド・コンピューティング時代に突入しつつあるなか、「さまざまな方面から最適な情報システムを研究できるという点から、当学会こそが真のクラウド・サービスを創造できる」と自信をみせている。
ITベンダーにとってISSJに参加するメリットは、自社に直接関わりのあるシステム関連について、情報システム学といった学問の立場から研究開発することによるビジネスの幅の広がりがあるほか、学問に触れることによる思いがけないヒントや洞察力が身につく点などが挙げられる。また、同学会が開催するセミナーなどで研究成果を発表することで、研究者のモチベーション向上やビジネスマッチングにつながる可能性などがあることだ。 広報委員長を務める三和コムテックの柿澤晋一郎社長は、「ITベンダーにとっては、現場ありきのシステムに加えて、上流工程からの提案が行えるようになる」と、同学会に参加する利点を語る。とくに、SIerにとっては「研究会などを通じて、ソリューション創造につながるのではないか」とみている。昨年に実施された研究発表会では、クラウド・コンピューティングやナレッジ・マネジメントなどをテーマに議論が交わされたという。
学会は、年内をめどに社団法人化することを目指している。これによって、「積極的に社会や産業界などに向けて発言していきたい」(竹並会長)との意向を示す。確かに、「情報システム学」という学問からビジネスにつなげるといった団体は珍しく、影響力のある団体に化ける可能性を秘めているのは確か。同学会に参加する企業は現段階で約20社。ビジネスを手がけるうえで、学問を視野に入れるようになるITベンダーが会員企業として増えれば、社団法人化は夢の話ではなくなる。(佐相彰彦)