ソリトンシステムズ(鎌田信夫社長)は、ビープラッツ(藤田健治社長)と協業し、SaaS/PaaS流通プラットフォーム「SaaSplats」上から自社SaaSブランド「Soliton OnDemandシリーズ」の提供を開始した。ビープラッツは昨年秋頃から、販社がSaaSを流通させるための仕組みをリリースしてきた。この4月に流通と販売ができる体制が整ったことから、ソリトンはSaaS普及の本格展開に踏み出した。
大手流通から確実にユーザーに
ソリトンシステムズは、昨年5月から自社で開発したIT資産管理などのPC運用管理関連製品がSaaSとの相性がよいとみて、パッケージ製品をSaaSブランド「Soliton OnDemandシリーズ」として展開。直販と自社で開拓した流通網を活用して拡販を図ってきた。今期、直販では自社で業種にとらわれずにモデルユーザーを設定し、当該企業に対して重点的な販売を進めてきた。また、自社開拓の流通網については、パートナーがいくつかもっているサービスの一つとして取り扱っているケースが多いという。ソリトンシステムズ サービスビジネス本部の松本吉且本部長は「中小企業に対して、SaaSの営業が行き届いていなかったことから、ビープラッツのプラットフォームの流通基盤を使ってリーチしたいと考え、協業した」と経緯を語る。
ビープラッツでは、SaaS/PaaSを販売するための商流開拓、ユーザーの利用契約管理、課金請求、回収までを包括的に提供するプラットフォーム「SaaS plats」を構築し、4月から本格展開を開始した。昨年9月から順次、ネットワールド、ダイワボウ情報システムといった大手ディストリビュータとの協業を実現。SaaS/PaaSベンダーと販売店に対してビジネスマッチングの仕組みや、複雑な顧客管理、販売管理の仕組みをシステム的に提供する。
SaaS/PaaSの担ぎ手である販売店に対して「MySaaS」と呼ぶ専用ストア・管理機能を提供するとともに、SaaS利用顧客と販売店の対応、請求・課金業務といった販売管理をビープラッツが担う。SaaSベンダーは、ビープラッツと契約するだけで、ネットワールド、ダイワボウ情報システム、ハイパーの大規模な商流を、自社の販路としてもつことができる。ビープラッツの基盤を利用して、SaaSを売るための販売店用の仕組みを、ダイワボウ情報システムでは「iDATEN(韋駄天)SaaS」、ネットワールドでは「NwaaS(Networld as a Service)」というブランドで提供している。販売店は無料でビープラッツの基盤を利用できるだけでなく、成約すれば年10%の取次料が入ってくる。
これまで、直接販売や間接販売でSaaS/PaaSを流通させようとした場合、いくつかの課題があった。自社で直接販売しようとすれば、従量課金制なども含めた月額請求課金や月々発生するユーザーの申し込みや解約の処理、アカウント増減といった複雑な契約管理作業が生じる。また、自社で販売店網を構築した場合には、販売管理の仕組みがなかったり、売買契約が成立した場合の取次料の支払いがシステム化されていなかったり、不明瞭であったりもする。例えば大手ディストリビュータの全国販売網を使ってサービスを展開しようとした場合にも、パッケージの場合と受発注のプロセスが異なることから、流通では取り扱っていないところが多かった。このような契約、販売管理上のネックをすべて解消する。ビープラッツの藤田健治社長は「SaaSを使ったことのない販売店もいる。まずは販売店がSaaSを導入して評価する動きが中心になると思う。その後に、販売店から中小企業に勧めてもらえるような、泥臭いビジネスを立ち上げたい」と熱意を込める。
ソリトンシステムズの松本本部長は「『売る人』がはっきりと見え、地に足のついたリアルな流通モデル」と評価する。ビープラッツの藤田社長は「これからISP関連のパートナーやデータセンターなど、契約する社数も増える。今後はどのSaaS/PaaSをどの流通で取り扱ってどんなユーザーに販売すれば効果が上がるのか、協業ベンダーとともに個別の戦略を立てていきたい」と計画している。
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「雲つかむ」から「地に足つけた動き」へ
ソリトンシステムズとビープラッツが出会ったのは、昨年、ネットワンシステムズが立ち上げたクラウド・ビジネス・アライアンスの発起人の1社としてビープラッツと情報交換を行ったのがきっかけ。「話を聞いてみると、『どこから買える』『誰が売る』がはっきりしている」(ソリトンシステムズ サービスビジネス本部の松本吉且本部長)ことが今回の協業に至った理由だ。
ビープラッツの「SaaSplats」ではソリトンシステムズの「On Demand シリーズ」に加え、「GoogleApps」「Microsoft Online Service」、クオリティの「ISM」などを販売している。同社では2013年に100億円の売り上げを目指している。
SaaSを『売る仕組み』を提供しているベンダーは多いが、SaaSを提供する側にとっては、「実際どのように売るのかがはっきりわからなかった」(松本本部長)という。確かに、『売る仕組み』は作ったものの、それをどのような販路を介して売り、販売店にどんなキックバックがあるのかをはっきりさせているサービスはあまり聞かない。
地域の販社ではSaaSが本格的に普及すると、パッケージ販売からサービスビジネスに変わることで『中抜き』が進めば自社のビジネスがなくなるのではないかと不安を抱くベンダーが少なくない。一方、新しくSaaSを始めようとする会社にとっては、初期投資の回収ができるのかが不安で前に踏み出せない面もある。
SaaSを販売するインフラは多々あるが、それが成功しているという話をあまり聞かない。ビープラッツの藤田健治社長は「コンシューマと違って、単にSaaSインフラを用意したところで企業は買わない。従来どおりの地道な営業活動をしなければ、企業にSaaSは普及しない」と話す。SaaSやクラウドという言葉は、実態に先行して市場に広がっている。雲をつかむような話から、地に足のついた実業に落としこむ『売り』の重要性が高まっている。(鍋島蓉子)