グーグルの国内でのエンタープライズ(法人向け)事業は、どこへ向かうのか――。クラウドコンピューティングの本格普及を前に、「クラウド」の言葉を世に広めた“仕掛け人”の日本法人では、エンタープライズ要員として年間200人を採用する計画だ。職種としては、営業やマーケティング担当が含まれているため、直接・間接的にエンドユーザーへの販促活動が強化されることが予想される。
先日、米グーグルはモバイル用のOS「Android」に続き、「新OS「Google Chrome(グーグル・クローム)OS」を発表し、パソコン用に搭載拡大を狙う方針が伝えられた。また、ソニーとはテレビ関連で協業し、過去にさかのぼれば米セールスフォース・ドットコムとも戦略提携している。グーグルのクラウド・プラットフォームを使って、法人の「ユーザー・エクスペリエンス」を追求し続けている。ただ、これを日本市場にどう根づかせるかという点では課題が多い。
前社長の退任を機に、社長職を廃止した日本法人で事実上の日本代表に着任した有馬誠・専務執行役員は、「エンタープライズ領域は、超戦略的な新規事業だ。明確な成長戦略をもって行動している」とコメントしており、緻密な行動計画が練られていることは確かだ。
同社はクラウド・サービス「Google Apps」のアカウントに統合できアプリケーションやサービスを購入できる「Google Apps Marketplace」の提供を開始した。
法人向け担当責任者の大須賀利一・エンタープライズ部門マネージャーは「このプラットフォームからアプリを購入すると『Google Apps』の管理画面にアプリも現れ、各種設定ができる。ここにサードパーティが開発したアプリを多く載せたい」と、まずは日本の法人に合った勤怠管理など、アプリの数を増やすことを促進するという。
しかし、国内でクラウドを普及させるために、「売り手」の存在が欠かせないことは自明の理。国内では、SIerの富士ソフトが販売代理店契約を締結した。同じようにアライアンスを組むSIerは現在10社。だが、「アメーバのようにつながることを期待する」(有馬専務)としており、自ら「売り手」を獲得しようと動く気配はない。
富士ソフトは、「Google Apps」の基盤を利用したさまざまなサービスと導入支援・サポート、テクニカルサービスを提供している。大規模なシステムを除けば、現在クラウドは情報系システムから導入が進んでいる。この際に、既存システムとどう連携させるかというシステムインテグレーション(SI)が発生する。同社のようなプレーヤーが増えてこないと、グーグルのエンタープライズを軌道に乗せるのは難しいだろう。(谷畑良胤)

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