日本ヒューレット・パッカード(日本HP、小出伸一社長)が、ISVやシステムインテグレータ(SIer)との協業体制を東日本で整備・増強している。竹内英明執行役員が推進する戦略で、東日本地域の中堅・中小企業(SMB)を開拓するために約1年半前に新設した協業制度「Partner Eco System」への参加ITベンダーが、約250社集まっている。日本HP製品を活用したソリューションをパートナーとともに作り、販社がそれを売る体制を確立。東日本地域でのSMBビジネスが前年度比10%弱伸びているもようだ。成功を受け、今後は、大企業向けと西日本地域でも展開する計画だ。
250社と連携しSMBビジネス10%増に
「Partner Eco System」とは、日本HPとISV、SIerがそれぞれ連携し、協業して案件獲得に結びつけるためのアライアンス制度。日本HPがユーザー企業の求めるソリューションを、ISVやソリューションベンダーとともにつくり、営業力をもち、各地域で顧客基盤があるSIerなどのITベンダーに販売してもらう。
日本HPは、ハードやソフト、関連サービスの提供だけでなく、案件の発掘・紹介やパートナー同士のマッチングによる協業支援も手がける。この協業制度に参加した企業は、250社程度あるという。
この戦略は、竹内英明・執行役員製造・流通・サービス営業統括本部東日本担当が策定したもので、1年半ほど前に開始した。主に北海道を除く東日本地域で年商500億円未満のSMBに、ハード、ソフト、サービスを問わず、日本HP製品を拡販するために考案した。「Partner Eco System」参加企業に紹介するための案件発掘部門、パートナーをリクルートする部門、パートナーと共同で売れるソリューションを企画する部門との連携を取り、運営している。参加企業とのリレーションづくりでは、参加企業を集めた総会を東京と大阪で四半期に一回開催しており、今月17日には第6回を開いた。
竹内執行役員は、とくに案件発掘のためのテレセールス部隊を強化している。人員は明らかにしていないが、テレセールス部隊のスタッフと、提案ノウハウに竹内執行役員は自信を示しており、「ユーザー企業とのコンタクト数は、戦略を推進する前よりも10倍になり、見込み案件数は2倍に増加した」と豪語する。
一方、パートナーの募集については、これまで「支援が手薄だった面が、逆に効果を現している」(竹内執行役員)という。「日本HPはこれまで単純な製品提供のみにとどまっていたから、パートナーに目を向けてもらえなかった。今は、案件の紹介、パートナーが弱い部分を補完できるパートナーを紹介するなどのマッチングを展開することで、付加価値を感じてもらえている」と説明。また、「競合他社がチャネル施策を立て続けに変更してきていることも追い風になっている。他社のプランに不満を抱いて日本HPの『Partner Eco System』に興味をもってもらうケースもある」と話す。
一連の施策によって、竹内執行役員が管轄するSMB向けビジネス(ハード、ソフト、サービス含む)は、対前年比で10%弱伸びた。今後はこの協業モデルを東日本の大企業向けと、西日本市場にも移植し、「Partner Eco System」を、全国規模で広げる計画を示している。
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競合メーカーとの差異化は実現できるか
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)だけでなく、パートナーと協業しての中堅・中小企業(SMB)の開拓は、複数の大手コンピュータメーカーが重点施策に掲げている。それだけに、ここ1~2年、各社の動きは慌ただしい。
例えば、NECは、SI子会社のNECネクサソリューションズに東名阪地域のSMB事業を集約する方針を決め、2009年9月から動き出しているし、富士通は富士通ビジネスシステム(FJB)にSMB事業を任せることを決めている。一方、日本IBMは今年2月に、クラウドに代表されるITサービスの流通・再販制度を立ち上げ、SMB市場の開拓に乗り出している。
SMBには大企業とは違うニーズがあり、大企業に比べて投資金額が少なく、IT投資に慎重な姿勢をみせる。単価が安く、企業数が多いという市場の特性をもっている。大企業を得意とするコンピュータメーカーが、直販でSMB市場を開拓するのは現実的に不可能で、だからこそ各社は共通して、この分野に強いSIerやITサービス会社との協業体制をつくりたがるわけだ。
日本HPの竹内英明執行役員の言い分によれば、他社のプランよりも「日本HPの『Partner Eco System』のほうに魅力的を感じてもらっている」ことが、東日本地域のSMBビジネスを加速させている要因というわけだ。
ただ、ノークリサーチが調べた2009年度のPC(x86サーバー)の出荷実績をみると、前年度実績を上回り、シェアを伸ばしたのは、富士通のみだった。それ以外のメーカーは、日本HPも含めてシェアは下がっている。SMBビジネスはサーバーだけでなく、PCやストレージ、ソフト、サービスなど多岐にわたり、サーバーのシェアだけが評価点にはならないが、指標の一つになるのは確かだ。日本HPは好調さをアピールするが、完全に主導権を握っているメーカーはまだ存在しないと思える。(木村剛士)