日立製作所の統合システム運用管理ソフト「JP1」が、中国の市場で本格的に売れ始めている。大手地銀への納入実績など、大型のIT投資が見込める金融業界へも食い込んだ。中国の旺盛な経済成長の波に乗り、JP1などソフト商材の販売拡大を狙う。
JP1 Version 9
金融業界に食い込む
旺盛な経済成長、商機を拡大
苦節8年、日立製作所ソフトウェア事業部の中国戦略は、中国でのビジネスパートナーを探すところから始まった。2002年のJP1の本格投入からこれまでに、50社余りのビジネスパートナーを開拓。大手地銀へのJP1納入も、有力ビジネスパートナー経由で実現するなど、引き合いも好調だ。
週刊BCNでは、日立製作所の阿部淳・ソフトウェア事業部副事業部長、中国で活躍する現地法人の日立信息系統(上海)北京支社の森保治・軟件(ソフトウェア)事業部事業部長への取材を敢行。阿部副事業部長は、「中国でナンバーワンになり、アジアでナンバーワンになる。アジアは世界の成長センターであり、世界でナンバーワンになるという観点からも、最も重要な市場の1つと位置づける」と、中国ビジネスの拡大に強い意欲を示す。本紙主幹・奥田喜久男が上海で話しを聞いた。
アジアでもナンバーワンに
奥田 日立製作所の統合システム運用管理「JP1」といえば、国内のみならず、海外においても高い評価を得ていると伺っています。ただ、アジア、とりわけ中国ではどうでしょうか。
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| 阿部淳・日立製作所ソフトウェア事業部副事業部長 |
阿部 ご指摘のとおり、当社のソフトウェア商材で主力の1つである「JP1」は、先進国市場で納入実績を積んできました。ただ、次の成長を考えると、発展余地が大きいアジア・中国市場でシェアを獲らなければならない。そう考え、JP1関連では2002年から本格的に中国への進出を進めてきました。
当社は、グローバルでの戦略を常に念頭に置いているため、中国だけを見ているわけではありません。JP1について言えば、グローバルでの認知をさらに上げ、アジアでナンバーワンになるのが目標です。アジアでナンバーワンになるには、情報サービスの市場規模で、日本を追い抜き、大きく成長を遂げるであろう中国でナンバーワンにならなければならない。こうした位置づけで中国市場を捉えています。
奥田 JP1関連で、当時ほとんど未着手だった中国市場に、最初に乗り込んだのは総経理の森さんだと伺っています。
森 そうですね。わたしが中国に来たのは2002年、JP1をはじめとするソフトウェア事業部の商品群を中国で売っていくために、まずは、販売パートナーとなってくれる地元中国のSIerを訪問しました。今から8年ほど前の話になりますが、中国主要都市20か所の主要SIerリストをつくり、当時まだ数人だった部下とともに日立製作所ソフトウェア事業部の商材説明をして歩きましたよ。
結果から言いますと、わたしが属している日立信息系統(上海)軟件事業部と取り引きのある販売パートナーは、中国全国で50社余りに増え、当事業部の社員も、この8年でざっと60人へと拡充しました。売れ筋ソフトのJP1をメインとするソフト関連の販売は、中国の旺盛な経済成長の波に乗って、今後、現地市場の伸びを上回る勢いで伸ばすことを視野に、ビジネスの環境は順調に整いつつあります。
奥田 日本の支援体制はどうだったのですか。また、販売パートナーを開拓するに当たってご苦労なさった点は。
阿部 この8年間、日本の事業部長は何代か変わりましたが、中国・アジア事業に関してはソフトウェア事業部の歴代の“申し送り事項”として、引き継いできました。
今、森が「ビジネスの環境は整いつつある」と言いましたが、日本側に上がってくる報告のなかで、「うまくいかなかった」というレポートも過去に見ました。しかし、国内でもそうであるように、新規市場の開拓は失敗の連続なんです。ましてや海外ではなおさら。現地でひとつひとつ学んでいくしか方法はありません。失敗は失敗として、そのなかから改善のプロセスを回していくことが成功につながるのです。
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| 森保治・日立信息系統(上海)北京支社軟件事業部事業部長 |
森 日本の法人向けミドルウェアとしては、中国市場へ先駆的に出てきたわけですが、統合システム運用管理という分野で見れば、IBMやHPなど米大手コンピュータメーカーの方が進出が早かった。すでに超大手と呼ばれる地元SIerは、米系ベンダーの運用管理システムを担いでいるので、わたしは当初、超大手を敢えて訪問リストから外しました。
有力SIerといえども、ハードウェア販売が中心だったり、受託ソフトメインで自社でコントロールできる付加価値が少なかったりするケースが、中国ではまだ少なくないんです。かつては、日本の比較的大きいSIerでもそうでしたよね。こうした状況にあるSIerに向けて、ITライフサイクルの運用部分を強化できる「JP1」で付加価値を付けませんか? と提案してみたわけです。
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