“三方よし”の構図つくる 奥田 なるほど、顧客はITライフサイクルがより円滑に進み、販売パートナーは自身の付加価値向上につながる。顧客とパートナー、御社の“三方よし”の構図をつくったわけですね。
阿部 わたしたちソフトウェア事業部のプロダクトは、販売パートナーとの協業によって成り立っています。顧客と“三方よし”の仕組みをつくらないと、とてもシェアは獲れません。
中国のSIerの状況を調べてみたところ、ざっと20万社ほどあります。日本のSIerは1万数千社と言われていますので、人口比で考えても、中国のSIerの数は非常に多いんですね。市場が成長途上にあるため、比較的若いSIerが群雄割拠している状態だと見られ、それぞれがライバル他社との差別化策を追求している。こうした状況下で、JP1のようなITライフサイクルの運用部分で付加価値を高める商材に対するニーズも高まっています。
奥田 ソフトウェアは業務ノウハウや習慣をシステム化したものであり、それぞれの国や地域に合わせて手直しする必要があると聞きます。中国での研究開発体制はどうなっているのですか。
森 システム運用管理、ITサービスマネジメント(ITSM)に関する技術インキュベーションの推進を軸に、中国でのJP1のブラッシュアップに取り組んでいます。技術インキュベーションは、JP1を活用して顧客の経営課題を解決する方法や具体的なサービス技術の研究、JP1検証環境の活用などからなる組織横断的な取組みです。この技術インキュベーションの推進を中核として、中国の大学や研究機関、国や自治体、日立グループ、ユーザーが属する各業界などと連携を拡大していくという戦略です。
技術インキュベーションを中核とした組織や団体の枠を越えた連携は、2006年から推進しており、少しずつ成果が出始めています。中国のユーザーに必要な付加価値モジュールを新たに研究・開発したり、直接、ユーザー企業に出向いて要望を伺ったり、産学連携したりインキュベーションに必要な活動も活発化しています。JP1などの当社ソフト製品を評価するに当たって、販売パートナーにもJP1の検証環境を活用してもらい、見事に大手地銀での大型商談がまとまった事例も出てきました。
ソフト・サービス需要増へ  |
| 奥田喜久男(本紙主幹) |
奥田 日本の情報サービス市場は、同業者間取り引きを除いた真水で12兆円ほどだと見られています。先ほども少しお話しいただいた中国のソフト・サービス市場の状況はどうなのでしょうか。まだまだハードウェアの販売構成比率が大きい印象を受けますが。
阿部 急速な経済発展で、数多くのサーバーやネットワーク機器などのハードウェアが必要な状態であることは容易に想像できます。日本のようにハードが過剰気味になり、統合化・仮想化が叫ばれる状況とは少し違うような気がしますね。資料を付き合わせてみると、中国のソフト・サービスの市場は4~5兆円規模だと推計され、日本に比べればまだ小さい。
とはいえ、発展のスピードの速さを考えると、ハード系商材が売れるのとほぼ並行して、JP1のようなソフト・サービス系の商材販売も増えるのは間違いない。当社のビジネスパートナーであるSIerのなかにも、すでにソフト・サービスの有用性に着目し、ITライフサイクル全体の設計や、ハードウェアの統合化・仮想化による効率化を推し進めることで優位性を高める動きが出始めていいます。恐らく、数年後には日本の情報サービス市場とほぼ同じくらいに成長し、規模で追い抜いていくことは間違いないでしょう。
奥田 JP1をはじめとする日立製作所のソフトウェア商材のビジネス環境が整いつつあるなか、そろそろ“収穫”時期に差し掛かっているのではないですか。今後の抱負も含めてお話しください。
森 中国の市場は、まだまだ大きく伸びる余地がありますので、目先の回収よりも、5~10年先を見据えた取り組みが大切です。今後、市場の伸びを上回る売り上げを目指していますが、そこで得た利益は日立製作所のソフトウェア商品群のブランド力を高める施策や、前述の技術インキュベーションを組織横断的により一層強化し推進していく点などに投資していく計画です。販売パートナーに“売ってくれ”と押しつけるだけではダメで、やはりユーザー企業から当社販売パートナーに“JP1を持ってきてくれ”と指名が来るよう、ブランディングや成功事例づくりに力を入れる方針です。
阿部 中国でナンバーワンになり、アジアでナンバーワンになる。アジアは世界の成長センターですので、JP1の存在感を世界に示すには最も重要な市場の1つ。これまで通り、腰を据えてビジネスに取り組みますよ。
奥田 本日はありがとうございました。

写真左から、森保治・日立信息系統(上海)北京支社軟件事業部事業部長、阿部淳・日立製作所ソフトウェア事業部副事業部長、奥田喜久男(本紙主幹)
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