【上海発】トレンドマイクロ(エバ・チェン社長)は、中国での法人向け事業を大幅に拡大させる。中国では、IT投資の増加に伴って、IT製品やサービスの品質が以前よりも厳しく問われる局面に差し掛かっている。法人向けセキュリティ市場でも量的・質的変化の兆しが明らかで、中国地場の企業や地方市場へのアプローチを積極的に行うことでビジネスを伸ばす。セキュリティのニーズが高まりつつある中国の現地企業や地方市場をどこまで開拓できるのかが、同社の中国ビジネス成功のカギを握る。
法人向け2年で40%増に
 |
トレンドマイクロ中国 張偉欽・副総裁 |
トレンドマイクロは、中国地場の企業や地方市場を重視する戦略を明確にしている。これまで同社の中国ビジネスは、日欧米など外資系/中国地場企業といった企業種別や地域などを特定せず、全方位で行っていた。だが、中国地場企業や地方市場の成長が著しく、中国におけるIT投資の主流になりつつある。このため、「現地企業をターゲットにする戦略をさらに強める」(中国現地法人・トレンドマイクロ中国の張偉欽・グローバル研究開発長兼グレートチャイナ地域担当執行副総裁)とし、中国地場系や地方市場を積極的に開拓。法人向けビジネスにおいて、向こう2年間の売り上げベースで、昨年度(2009年12月期)比およそ40%の事業拡大の目標を掲げる。
エリア戦略では、主要都市の上海や北京から遠く離れた地方にある企業に重点的にアプローチする。中国西部・内陸部をはじめ、各地方の市場開拓を視野に入れる。張副総裁は、「地方市場を視野に入れていないライバルの外資系セキュリティベンダーとの決定的な差異化を図る」と意気込んでいる。
また、法人向け事業の展開と同時に、セキュリティソフトのコンシューマ事業にも注力する方針だ。今秋をめどに、四川省・成都と山東省の2か所に絞り、コンシューマ向け製品を重点展開する。この分野に関して、同社は他の外資系セキュリティベンダーに比べて取り組みが遅れていたが、「シェア拡大を加速して、2013年までに販売シェアで15%程度を目指す」(張副総裁)と、積極的に打って出る姿勢だ。
法人・個人ともに地方進出を成功させるためには、「地方の情勢に精通する人材が欠かせない」(張副総裁)として、幹部クラスまで人材の現地化を推進。張副総裁は、「現地人材は、当該地区の顧客と同じ目線でビジネスの提案がしやすく、より有利に商談を進められる」と話す。中国地方市場では、人材面だけでなく、人件費の面でもメリットが大きく、今後も人材の現地化を推進する。
今後は、「一つの地方で事業がうまくいけば、そのビジネスモデルをほかのエリアへ拡大適用する」(張副総裁)と成功パターンを横展開し、地方市場の開拓に弾みをつける構えだ。
トレンドマイクロは、2001年6月に中国法人を上海に設立し、中国本土でのビジネス展開を開始。現在、上海、北京、広州の3都市に合計約120人の人員を擁するオフィスを構えるほか、南京に人員400~500人規模のウイルス解析サポートセンターを備えるなど、中国ビジネスを着実に伸ばしてきた。法人向けセキュリティ市場が量的・質的変化を遂げようとしていることをチャンスとみて、向こう2年でさらに大幅な事業拡大に挑戦することで、中国市場をグローバル展開の重要な柱とする。
【関連記事】中国の現地企業の開拓
ローカル情勢の把握が必須に
日本のSIerやITベンダーをはじめ、中国で活躍している外資系企業が岐路に立っている。中国国内で、これからも日本や欧米の企業を重点的に顧客の対象にしていくのか、それとも現地企業という巨大なポテンシャルが眠る市場を開拓するかを決めなければならない。もちろん、後者はハードルが高い。
中国で外資系企業を取材すると、現地企業にはなかなか手が届かず、ビジネスの限界がみえてきたという話があちらこちらから聞こえてくる。
一方では、トレンドマイクロのように、積極的に現地市場の開拓に取り組み、成功への道を走り始めている企業もある。その違いはどこにあるのか。
一つのヒントが、企業が「中国」という市場に立ち向かう姿勢にあるかもしれない。例えばトレンドマイクロは、営業現場に送るスタッフだけでなく、幹部クラスにも現地人材を数多く採用している。中国情勢に精通している現地人材を通して、外資系企業でありながら「まるで自分の国にいるかのように」(トレンドマイクロ)ローカル市場で活躍している。
ひと言でいえば、中国の情勢を把握しなければ、現地企業をターゲットにするビジネス展開は難しい。また、「中国はビジネススタイルが違う」というだけでは、問題は解決しない。中国の情勢に、柔軟に対応することが求められるのだ。
もう一つの重要なカギは、外資系企業のビジネスパーソンが「中国通」になることだ。さらにいえば、現地企業と同じくらいポテンシャルが大きい中国政府へのアプローチが必要不可欠である。
大手SIerにとって、中国政府はすでに重要なビジネスパートナーであり、成功の柱となっている。例えば、将来大きなビジネスになるであろう「スマート・グリッド」に基づくITサービスの中国での展開には、政府との意思疎通が欠かせないのである。(ゼンフ・ミシャ)