特定非営利活動法人のASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC)が、6月に「クラウドマイグレーション」をテーマにした研究会を立ち上げた。既存システムからクラウドコンピューティング環境へ移行するために必要な手法を導き出すことが目的で、今年度と来年度の計画概要を作成している。システムインテグレータやクラウドビジネスを手がけるベンダーにとって、有益な指標になるはずだ。
ASPICはASPやSaaSの普及促進団体で、設立は1999年。まだSaaSやクラウドという言葉が生まれる前から、ネットワークを経由したサービスとしてアプリケーションの機能やITリソースを販売する形式が将来の主流になると考え、10年以上前に活動を開始した。最近では、ASPやSaaSとの関係が深いクラウドコンピューティングに着目し、課題や普及策を調査・研究し始めていた。6月の「クラウドマイグレーション研究会」発足は、この一環である。
この研究会がユニークなのは、クラウドのなかでもオンプレミス(自社運用)システムからクラウドへのマイグレーション(移行)に焦点を絞っている点だ。クラウドは、誰も疑うことのないIT業界の主役。しかしながら、いまだにイメージ先行で、実態がつかめない部分が多い。とくに、実際にどんなシステムを移行させると効果があるのか、どんな手法を使えば効率的な移行ができるのか、その答えはいまのところない。ASP・SaaSの専門団体は、そこに踏み込んだ。
今年度の活動内容は、主に国内外のマイグレーション事例の調査・研究と、事例集の作成。そして、移行にあたっての課題の抽出と解決方法を検討する。そのうえで、最適な移行手法の確立を目指す。来年度には、クラウドマイグレーションに関するガイドラインの作成に取り組む予定だ。研究する事例は、候補の段階だが、山形県と佐賀県の自治体クラウド、静岡大学などを考えているようだ。また一般企業は、大企業から中小企業まで、企業規模別で取り組む予定という。
研究会のリーダーは、企業会計機能のSaaS「ネット de 記帳」で約8万社の中小企業をユーザーにもつビジネスオンライン(BOL)の藤井博之代表取締役(=ASPIC理事)。サブリーダーには、野村総合研究所やNTTコミュニケーションズの有識者が就き、そのほかのメンバーはASPICの会員で構成する。藤井氏は、「移行手法の確立、移行に必要な業務量、コスト、そして投資対効果を事前に把握できれば、クラウドの普及はもっと加速する」と意気込みを示している。
緻密な調査・研究を重ねて導き出したガイドラインでも、さまざまなクラウドシステムが点在するなかで、マイグレーションの絶対的な移行手法になるとは限らない。ただ、このようなマイグレーションに特化したガイドラインはない。それだけに、システムインテグレータやクラウドサービスベンダーにとって、有益な指標になることは間違いない。(木村剛士)