中国系有力SIerが、日本の情報サービス市場への進出を加速させている。中国大手SIerのデジタル・チャイナ(神州数碼)グループを大株主にもつSJIや、大連有力SIerで米NASDAQ上場企業のハイソフト(海輝軟件)は、日本での売り上げ大幅拡大の方針を打ち出している。中国系有力SIerは、軒並み年率2ケタ増の売り上げ成長率を目標に掲げ、日本市場への攻勢を強める。これまでの日本から中国への進出だけでなく、中国から日本への“逆方向の流れ”が顕在化してきた。
業種・業務ノウハウを武器に
中国系SIerは、日本の情報サービス業界の“弱点”を巧みに突く戦略を推し進める。制度疲労が指摘される多重下請け構造や、国内雇用を重視するあまり遅れが目立つグローバルソーシング体制といった弱点を突いて、中国系SIerの強みを前面に打ち出す。コスト競争力や生産力の高い開発拠点を生かし、ユーザー企業との直接取引や大手SIerなど元請けからの直接受注の比率を高めるなどして、日本におけるシェア拡大に全力を挙げる。
2010年6月に米NASDAQ株式市場に上場を果たしたハイソフトは、グローバルでの今年度上期(10年1~6月期)連結売上高が前年同期比52.7%増の6523万ドルに達している。同社は日本からのオフショアソフト開発を足がかりに事業を起こした経緯があり、日本の業務システムに関する知見やノウハウは豊富だ。同社の対日本ビジネスの売上高構成比はおよそ3割を占めており、第3四半期(10年7~9月期)の日本でのビジネスについては前年同期比62.6%伸ばしている。
ハイソフトジャパンの小早川泰彦社長は、「新興企業向けのNASDAQ市場に株式を上場している以上、M&Aを除いた既存事業ベースで3割から4割の売り上げ増が期待されている」と語る。そのうえで「日本市場でのビジネスがグローバルの成長の足を引っ張るわけにはいかない」(同)と、金融や製造、流通・サービスなどに焦点を当てつつ、成熟市場である日本でも同様の高い成長を目指す。
SJIは、向こう3年のビジネスプランで、日本での売り上げを直近の1.5~2倍、中国では2倍に増やす方針を示す。同社の今期(2011年3月期)連結売上高の見通しは前年度比7.5%減の203億円。主に日本でのビジネスの不調が足を引っ張ったかたちだが、戦略を大幅に見直すことで再び増収路線に戻す。中国の南京や合肥などに展開する大規模な開発拠点を生かし、もともと力を入れてきた金融や運輸、流通といった業務ノウハウをより伸ばす。さらに、持分法適用関連会社の株式売却などで得られる見込みの資金を原資にして、数十億円規模の投資を日本で行い、売り上げを一気に増やすことを視野に入れる。
ハイソフト(海輝軟件)の連結売上高推移
一方、中国の情報サービス市場は年率25%増で急成長していることから、大株主のデジタル・チャイナグループなどとの連携を強化しつつ、「市場の伸び以上に伸ばすことで、向こう3年で100億円を上乗せしていく」(SJIの李堅社長)と意気込む。同社の日本と中国の売上比率はおよそ半々で、中国ビジネスは倍増の200億円規模に伸ばす。中国での事業拡大を目指す日系企業が急増しており、中国でのビジネス基盤の拡充は、日本でのビジネスを有利に進める好材料にもなる。
ユーザー企業は、欧米企業が積極的に活用するグローバルソーシングによるコスト削減に「強い関心を示す」(ハイソフトジャパンの小早川社長)。さらに、クラウド/SaaSなどサービス利用によってソフト開発の規模を抑制する。これは、日本の多重下請け構造による大規模な受託ソフト開発とは相反する動きであることは明らかだ。この弱点を克服しない限り、中国系有力SIerの攻勢の流れに十分に立ち向かえない可能性がある。
SJIの売上高成長イメージ
表層深層
世界の情報サービス業を見渡すと、中国とインドをはじめとする新興国の伸びが大きい。このなかでも、中国は20年余りにわたって日本からのオフショア開発を請け負ってきた経験をもち、日本のユーザーが好む業務システムのあり方を、他の国に比べてより深く理解していることが、中国系SIerが日本で有利にビジネスを進められる背景にある。
国内の情報サービス業、とりわけ受託ソフト開発が伸び悩む課題を抱える現状を、中国系有力SIerは見逃していない。ミツイワの中国現地法人社長で、自らも上海林唯信息系統などの会社を経営する林堅氏は、「日本のユーザー企業が中国のIT企業に直接発注する動きが活発になっている」
と状況を語る。つまり、これまでは、日本のユーザー企業→大手日系元請け→二次請けなどを経て中国でオフショア会社へ発注するという、多重的な構造が多かった。ところがリーマン・ショック以降は、コスト削減の必要性の高まりから日系ユーザー企業から直接、中国SIerへ発注するケースが増えているというのだ。
ハイソフトが躍進した要因の一つに、米大手製造業のグローバルデリバリーセンター(GDC)に指定されたことが挙げられる。同社の小早川社長は、「GDCに代表されるようなグローバルソーシングが、日本でもようやく根づき始めた」とみる。日本企業にとって最も有力なグローバルソーシング先が経済的、人的交流が深い中国であり、中国有力SIerはこの潮流に乗って日本でのビジネス拡大を目指す。(安藤章司)