国内IT流通業界を大きな再編の波が襲った。丸紅は所有する丸紅インフォテックの全株式を米SYNNEXグループに譲渡。丸紅インフォテックは、12月1日付でシネックスインフォテックに社名を変更した。社長には、米SYNNEXの創業者で前会長兼CEOのロバート・ファン氏が就任した。これまで買収、合併が繰り返されてきたIT流通業界だが、国内有数の大手ディストリビュータが外資系企業の傘下に入るのは極めて異例。ファン新社長は週刊BCNの取材に応じ、「日本における丸紅インフォの強みとグローバルにおける米SYNNEXの強みを生かしたハイブリッド企業を目指す」と力強く宣言。「丸紅との関係は非常によく、これからも力を借りてWin-Winの関係を築いていきたい」としている。
徹底したコスト感覚、浸透させる
ビジネスプロセスサービス大手の米SYNNEXがグループ傘下に収めたシネックスインフォテックは年商が1000億円超で、ダイワボウ情報システム(DIS)、ソフトバンクBBと並んで国内大手ディストリビュータ“御三家”の一角を占める。「すでに大きな商圏をもっていたのが魅力だった。さらに発展する可能性がある」と、ロバート・ファン社長は旧丸紅インフォテックを高く評価する。
ファン社長が何よりも重要視するのは徹底したコスト感覚。とはいっても、改革案は旧丸紅インフォ時代の延長線上にはない。「リストラは行わない」と断言する。至上命題に掲げるのは、サプライチェーンの全体最適化。「この業界はコストが一番重要なポイントで、米SYNNEXはコスト低減に注力してきた。加えて、いかにスピード経営を実践するかが大事。在庫は時間が経つと“腐る”。回転率を向上させて、注文、出荷の情報など、全体のサプライチェーンを可視化する努力を重ねてきた」(ファン社長)。米SYNNEXのノウハウをシネックスインフォに横展開する考えだ。現在のシネックスインフォに対しては、「オペレーティング(物流関連)コストが高すぎる。30~50%は下げられる」と苦言を呈する。
シネックスインフォで現在稼働中の基幹システムについては、2011年初旬に米SYNNEXの「カスタマーインフォメーションシステム(CIS)」に移行する方針。米SYNNEXの競争力の源泉を取り込むという意味があるが、それだけではない。シネックスインフォは、2005年にコンピュータウェーブとの合併に伴う新基幹システムの導入で、これに一部不具合が生じた苦い経験をしており、「次のシステムは自前でやるという声もあったが、米SYNNEXの『CIS』を採用する」(坂元祥浩・執行役員管理部門長補佐 兼 経営企画部長)という。
旧丸紅インフォテックは、ここ数年、赤字決算が続き、リストラなどの痛みを伴うコスト圧縮策を講じてきた経緯がある。「筋肉質になった」(坂元執行役員)ものの、製品の価格破壊に直面し、物販ビジネスを伸ばすのが容易ではない状況にあった。今回、米SYNNEX傘下に入ることで、競争力の強化を図っていく。
日本では知名度が乏しい米SYNNEXだが、2009年度(09年11月期)の売上高は、77億1900万ドルで、純利益は前年度比10%増の9210万ドルを計上。企業向けサーバーグループはユーザー数を前年比50%増やし、企業向けサーバーの売り上げは前年比11%増となった。事業として、ディストリビューションのほか、コントラクトアセンブリサービス、ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)を展開。拠点は、売り上げの95%以上を占める北米を筆頭に、中国や英国、メキシコ、フィリピンなどに設置している。
日本市場への参入は、1995年にまで遡る。同年4月に米SYNNEXの関係会社としてシネックスを設立。電子機器や関連製品・材料の輸入、販売を開始した。ただ、その10年後にMCJに株式を譲渡。現在のシネックスはMCJ傘下にある。ファン社長は「日本のIT流通市場は新規参入が難しい。当時シネックスの年商は240億~250億円だったが、これ以上の伸びは見込めないと判断して売却した」と振り返る。
合従連衡が進むIT流通業界では、規模のメリットを追求する必要があったことが大きな要因。再編はさらに加速化している。
表層深層
シネックスインフォテック誕生について、旧丸紅インフォの内情を知る丸紅社員は、「2000年以降は国内市場の成熟化が進み、メーカーや小売業者、システムプロバイダの再編が行われてきた。流通企業にとっても変革は否応なしに求められており、その一つの過程が今回の再編だと受け止めている」と話す。
メーカーや販売店には、どのような影響が考えられるか。例えば、米SYNNEXの最大の仕入先はヒューレット・パッカード(HP)だ。HP製品の売上高は30%を超えている。このほか、多くの外資系メーカー製品を取り扱っている。これは、もともとHPをはじめ外資系メーカー製品の流通に強いシネックスインフォテックにとって、サーバーなどの販売やユーザー数で躍進を続ける米SYNNEXの販売ノウハウ、経験値を取り込むチャンスとなる。外資系メーカーは諸手を挙げて歓迎している、とシネックスインフォの坂元執行役員はいう。
新生シネックスインフォを率いることになったロバート・ファン氏は、九州大学工学部を卒業しており、日本語が堪能。IT流通業界に30年以上身を置き、「この業界で自分よりもキャリアのある人間はいない」との強烈な自負がある。
ファン社長は、まずはシネックスインフォの現状を知る、基盤固めに着手する、拙速に走らないことを強調する。「半年後、1年後にまた取材に来てくれればいい。その時に成果をみせる」。この1年でファン社長の手腕が試される。(信澤健太)
米SYNNEXの売上高推移